私が、凛と吉祥寺のアパートで同棲を始めてから暫くすると、私は、クラブ睦のお客ではなくなってしまった。店の中には入らず、店を終えて出てくる凛を、他の客には見つからないように店の近くの物陰で待ち構え、そして一緒にアパートに帰る。そんな、風になってしまった。
「kさん、一体何やってるんだ? それじゃあ、ただのヒモみたいだよね。」
「そうなんだよね、自分でも何だかいやだな、と思ってはいるんだよ。」
「kさんは、何か必死になって、守っているようだけど。そもそも、山名響子には、どんな役割があるんだ? 香の母親、という以外になにかあるのか?
何もないのだったら、香が生まれてくるまでは、あまり積極的にかかわる必要はないんじゃないの?」
「今のところは、分からないよ。でも、考えてみれば、香りの母親というだけで、月成が面倒を見るというのも疑問だ。
香が将来、教団にとって重要な役割を担うとしても、初めから分かっていたわけではないはずだ。そうすると、山名響子にも独自の役割があるはずなんだ。
それも、名前を高場凛という偽名にしているからには、そうするだけの理由があるはずだと思うよ。」
「高場凛というのは、クラブ睦での源氏名じゃあないのか?」
「月成は、アーリア商会でも、高場凛と名乗っていて、山名響子の名前は誰も知らないようなことを言っていた。」
「何でだ? アーリア商会にいる時に、もう既に別の名前が必要だったのか?」
「そうだよね、だとすると、やはり神州光輪会に関係した仕事かな。単なる事務員ではなく、教団に関わっていた。だから、アーリア商会に来た、という可能性もあるよね。」
「そうだな、kさんの言う通りかもしれない。順序が逆だったのか。アーリア商会でバイトしてから、波多野や教団と関係ができたのではなく、教団の関係者として、アーリア商会に派遣され、そこで波多野や月成と知り合った。
そういう事なのか。・・・・・・
だとすると、その高場凛との同棲はやっぱりまずいんじゃないのか?」
「どうして?」
「だって、高場凛は神州光輪会と深い関係があるのだとしたら、kさん、あんたが逆に監視されているのかも知れないよ。だから、同棲も簡単にOKしたんじゃないのか? kさんは、何か勘違いしているのかもな。」
「そんな、そうだとしたら、僕はそれこそ何をやっているのか判らなくなるじゃないか。それこそ、ピエロか?」
「まあ、ピエロじゃないけど。ピエロだって思うところが、既に勘違いしているようだけど。いいか、よーく考えろよ。kさんは、香りさんを守るために、ここに来た。あくまでも、その為に高場凛に近づいた。だが、その高場凛は、ひょっとしたら将来において香の敵になるかも知れない、神州光輪会の関係者だった、ということだ。」
「ということは、でも高場凛は香の母親なのだから、香も、初めは神州光輪会との関係に問題は無かったわけだよね。」
「それは、分からないよ。今は、高場凛は神州光輪会の仲間だとしても、この先対立するのかも知れない。香が生まれたときには、対立していたのかも知れない。
はっきりしているのは、kさんが、神州光輪会の関係者だと思われる月成から敵対者だと疑われていること。そして、その月成の監視下にある高場凛と同棲している、ということだよ。」
「でも、待てよ。確か、山本先生が言っていたのは『天の船』という団体であって、神州光輪会ではないんだよね。香はその『天の船』の内部争いだったような、気がする。」
「そうだとしても、40年後の話だ。今の『天の船』と『神州光輪会』とがそのままで40年後もあるとは限らないんじゃないのか。」
「その2つが一緒になっているかもしれないという事か?」
「そうかもしれない。今はまだ、分からないことが多すぎるし、何しろ、40年も先の事件だからな。今はむしろ、目の前の危険だよ。月成は警戒すべきだと思うよ。」
「その為には、高場凛にも注意しろ、という事か?」
「そういう事だよ、kさん。浮かれてちゃあ、駄目だよ。」
―――――― 浮かれているわけじゃ、ないよ。