赤坂のクラブ睦を、鈴木と一緒に訪ねた。
「店に知り合いの子がいるっていうのは本当ですよね。大丈夫なんですよね。」
入口の受付カウンターはそこそこ明るいのだが、ボーイに案内されて進むと、店内はかなり暗い。ゆったりしたソファーのBOX席に座って女の子が来るのを待った。
鈴木は、大丈夫だというが、気になってしまう。凛と会うこと以前に、店に来ること自体が不安だったのだ。ここは、アウェーのような気がする。少なくともホームではない。
40年前の赤坂には、ディスコクラブ MUGEN、キャバレー ミカド、ホテル ニュージャパン などがあった。40年後にはそのすべてが消え去ったのだ。赤坂は一見すると、何も変化がないようだが、しかしこの40年で別の街になってしまったのだ。
この店も40年後には消えているだろう。いわば幽霊のようなこの世界で、どんなトラブルが起きないとも限らないのだ。
ボーイが女の子を連れてやって来た。
「ご指名ありがとうございます。渚さんです。」
渚と呼ばれた女の子は長い黒髪を束ねて、右肩から胸元へおろしていた。
「渚です。どうぞよろしくお願いします。」
挨拶が終わると、渚は鈴木に尋ねた。
「裕さんの紹介って聞いたけど。渋谷の人?『初めまして』で、いいのよね?」
「ああ、そう渋谷なんだよね。」
「ふうん、前にも渋谷の人が来たのよね。何でだろう。本店から来る人は、いるけど。渋谷から来るって、何があるの?」
私は、2人の話がよく分からず「ごめん、ちょっと話がよくわからなくて。鈴木さん、ちょっと教えてもらってもいいですか。」と、尋ねた。
「kさん、済まないね。実は、渚ちゃんは所謂、協力者なんだ。本店てのは、分かるよね、本庁のことだ。渋谷は俺のいるところだよ。」
「裕さん、というのは誰ですか?」
「俺の先輩で、赤坂の人なんだ。その人が、この渚ちゃんをよく知っているんだよ。」
渚が、事情を説明してくれた。
「私はね、ガキの頃は色々あってね、裕さんにお世話になったことがあって。それで、この店は場所柄、お偉い先生方も来るでしょ。だからね、裕さんに時々恩返ししているわけよ。」
「つまり、情報提供者ってことですね。」
「まあ、そういう事ね。でも、お国の為なんだから、悪いことをしているわけじゃないでしょ。」
「うん、まあ、そうですね。」
私は、ようやく状況が飲み込めた。すると、鈴木が、以前来たという渋谷の人について尋ねた。
「そうね、確か、名刺持ってたわね。ちょっと待ってね。」
渚は、そう言うと、バッグの中から、名刺入れを取り出した。
「あった、この人、吉岡さん。たしか、シンちゃんって呼んでたわ。」
名刺の名前は、吉岡慎一となっていた。
「鈴木さん、心当たりがあるんですか?」
「間違いない、ゆかりさんの・・・。俺の先輩だよ。普段は吉岡の名前を使っていた。」
ゆかりママの彼氏? 何故、ここに来たのだろうか?
「渚ちゃん、その吉岡さんは、何を調べていたのか分かるか?」
「うーん、もう2年前になるかな。たしかねぇ、何とかっていう宗教の話だったかな。」
「『神州光輪会』の花澤行雄じゃないのか?」
「そうだったかも知れない。ごめんね、よく覚えてなくて。」
「いやあ、大丈夫、気にしないで。吉岡さんが来たってことだけでも十分だよ、ありがとう。ところで、彼女は呼べるのかな?」
「凛ちゃんね、今、ヘルプでつけるわね。」