そうだった、鈴木は石井刑事に頼まれてここにきているのだった。石井刑事は公安の外事課、国際テロを扱う部署だった。今、この世界に石井刑事はいないのだが、月成と波多野の関係を考えれば、ここで国際的なテロが起きていたのかもしれない。

 

 武器を蜜輸入するという事は、密輸出する相手がいたということだ。それが誰だったのかを石井刑事もまた、時間をさかのぼって追っているのだろうか?

 

 石井刑事は確かに、波多野が偽名を使って密貿易をしていたことを気にしていたのだ。

 

 『波多野さんは、大陸と密貿易をしていました。元々、彼の父親が大陸の出身だったことも影響していたのかも知れません。

それらの事業も、彼の話によれば清原さんの為にだめになったわけですが。

 

 彼は、その仕事を山中響子さんに引き継いだようです。山名響子さんの、足取りも詳しくは分かっていませんが、恐らく娘の香さんも引き継いだのだと思われます。』

 

 石井刑事は波多野の仕事を問題にしているようだった。しかし、密貿易をしたと言っても40年も前の話だろう。それに娘や孫が跡を継ぐというのも、なんだか変な話だ。それを、今問題にしなければいけないのか。

 

あの時は、そう思って真剣にはその話を聞かなかった。

 

『ハッキリ言えば、彼らは諜報活動を行っていたのです。もちろん利用されていたにすぎないのだとは思いますが。』

 

石井刑事はそう断言したのだが、それでもその時は、私にはどうでもよい話に思えた。

 

 

 畔倉香が襲われたのは、この時代の国際テロに関係しているのだろうか。

因果関係という点から見れば、この時代にさかのぼって詳細に事実を見れば、何故事件が起こったのかは分かるのかも知れない。

 

 だが、石井刑事の目的が事件の解決だとすれば、私が山本一郎から依頼されたこととは矛盾する。私が依頼されたことは、事件を防ぐことではないのか。事件を未然に防止するのが一番ではないだろうか。

 

 しかし、公安の立場では、それは違う。事件の背後関係を確認し、主犯を逮捕し、今後の発生を防止する。その為には、一度事件が起きなければならない。

 

 そうか、一度目の事件は既に起きたのだ。だから、今は事件の背後関係を確認しているのか。ということは、ここで起きていることは一種のシミュレーションのようなもので事件を再現しているだけなのかもしれない。

 

 だが、そうすると月成の行動は不自然になってしまう。鈴木が月成に会うなどということは、前の世界では無かったことだろう。月成は、梢と共に、私が誰かを知ろうとしていた。やはり、この世界では異分子なのか。

 

 いや異分子は、私の方だ。私こそが、この世界のウイルスなのだ。だから、月成は逆に私を排除しようとする。免疫行動をとっているのだろう。この世界の秩序を守ろうとしているのかも知れない。

 

 この世界でも、以前と同じようにすべての出来事が因果関係に従って起きている。私と鈴木は、その因果律を破壊しようとしているのかも知れない。