私は、緊張をほぐそうとコーヒーカップに口をつけた。

 

月成が、何かを確かめるように私を凝視した。

 

動揺を悟られまいと、私も月成の目を見返した。

 

すると、頭の中で月成の声が響いた。

 

『君は誰だ? 山名響子を知っているという君は誰なのだ?』

 

心の中で答えた。『私はkだ。』

 

『本当の名前は何だ?』

 

『私の名前はk。ほかの名前は知らない。』

 

『この世界で、山名響子という名を知っている者はいない。山名響子の名前は伏せられていたからだ。アーリア商会での名前は高場凛だ。なのに、なぜ君は山名響子の名前を知っている?」

 

―――― 高場凛という名は聞いたことがない。

 

梢の声が聞こえた。

 

『やっぱり、この男が父を追い詰めたに違いない。この男が、やがて山名響子を助けることになるに違いない。そうなる前に始末するべきよ。』

 

『君は誰なのか?本当の名前を言わないのならば、このままこの世界から消えてもらうことになる。』

 

―――― いっそのこと、本当のことを話すか。しかしそれでは、結局波多野を追い詰めたことにされてしまう。

 

 

その時、突然誰かに肩をたたかれた。

 

「よう、kさんじゃないか。あぁ、梢ちゃんも一緒だね。どうしたの、こんなところで会うなんて、奇遇だね。」

 

新聞を片手に持って現れたのは、鈴木だった。多分、近くの席からこちらの様子を見ていたのだろう。

 

「あれ、こちらは?」

 

「ああ、この方は、梢ちゃんの知り合いで月成さんと言うんだ。」

 

「あなたが月成さん、お話は聞いてますよ。ところで、今も爆弾を作っているのですか。」

 

 月成の表情が険しくなった。

 

「爆弾とはどういうことですか?」

 

「月成兵輔、1970年代に幾つかの爆弾を使ったテロ事件に関わりましたよね。」

 

「突然おかしなことを言いますね、どなたですか、この方は。」

 

「私は、鈴木と言います。草ですよ。ただの国を思う草莽の一人。民衆の一人にすぎませんよ。」

 

そう言って、鈴木は名刺を差し出した。

 

「ジャーナリストですか?」

 

「ええ、一応ジャーナリストの端くれです。ですから、あなたのことも調べたんですよ。そうしたら、あの爆弾を作った方だった。勿論私は、草莽崛起の一つだと思って尊敬しているんですよ。」

 

「そうですか。何を仰っているのかはよくわかりませんが、私は用事がありますので、今日はこれで失礼します。」

 

月成は態度を一変させ、急に帰ると言い出した。

 

「いや、待ってください。まだ山名響子の連絡先を聞いていませんよね。それを聞かないわけにはいかないのです。」

 

鈴木の強い口調に月成は、不快そうに名刺を取り出した。

 

「これが、彼女の名刺です、どうぞ。これ以上のことは知りませんので。」

 

それだけ言うと、梢と一緒に席を立ってしまった。