週末の土曜日に、梢ちゃんと銀座のギャラリーパークで待ち合わせた。
学生を含めた若い画家たちの絵を集めて展示していた。水彩画、ボールペン画、日本画など様々だが、目を引かれたのはインドの細密画のような絵だった。
幾重にも描かれた宝輪のような輪に、細かくデザインされた花弁と葉などが描き込まれその中心に装飾された生き物が描かれている。同じデザインで中心の生き物だけが異なるものが数種類ある。生き物は、象や狼、馬、鹿、魚などがあり、そしてガネーシャを描いたものもあった。
別の画家の絵で、預言者と題された3枚の絵があった。右から白衣を着た老人と、その周りに集う人々の絵。次に、港と桟橋の絵があり、遠くに箱舟のような船が見える。最後の絵は、大勢の人々と動物、植物などの生き物を乗せた船が、海から宙へと飛び立つ様子が描かれていた。
その3枚の絵とは別に、左隣に、MOONと名付けられた絵があった。暗黒の空を背景に輝く真白な月で、その月の輪郭にはピンク色の光が見えた。
私は、最後の白く輝く月が気に入ったので、そこで暫く立ち止まっていると「こんにちは」と声をかけてくる男性がいた。振り返ると、「初めまして、月成です。」という。
背が高く、少し細身だが目つきの鋭い男で、年齢は40代くらいに見えた。まさか、直接会うことになるとは思っていなかったので、少々驚いた。梢ちゃんは、わざと黙っていたのか、と疑う気持ちが強くなった。
3人で、画廊を出て、近くの喫茶店に入った。地下へと階段を降りて、店のドアを開ける。真鍮の取っ手のついた古いが立派なドアだった。左手から出てきた男性の店員に案内され、奥へと行くと、またガラスのドアがあり、そこを開けて四方をガラス窓で囲まれた部屋の中へ入って、席に着いた。
今度はウエイトレスがやってきて礼儀正しく注文を取り、程なくコーヒーが出てきた。全ては、よく訓練された人形たちによって手際よく運営されているようだった。
「波多野さんのことですよね。波多野さんは、連絡先も言わずに突然いなくなったんです。いなくなる前の日に、会社にはもう来るなと言われました。赤字で夜逃げするしかないんだと言ってましたよ。それ以来会っていません。勿論連絡先も分らない状態です。」
「山名響子さんは、ご存知ですか?」
「はい、1年位一緒に働いていましたから。」
「山名響子さんの連絡先は分かりますか?」
「はい、知ってますけど。でも、どういう御関係なのかお聞きしてもよろしいですか。」
予想はしていたが、対面で聞かれると、一瞬どう答えたものか緊張してしまう。この男は、紳士的なふるまいではあるが、何者か分からない。
「梢さんにもお話ししましたが、波多野さんには以前仕事でお世話になったのです。その際に山名響子さんともお話したことがありました。でも、波多野さんと連絡が取れないので、山名さんがご存知かなと思ったものですから。」