中央高速を西へと走る車の中で、波多野は殺されるかもしれないと不安だった。
「どこまで行くんだ?殺すんだったら、さっさと殺してくれ。命乞いはしない。」
「命を取るとは言っていませんよ。ただ、今後は山の中でおとなしくしていろ、とそう言っているだけですよ。もうすぐ着きますから。」
相模湖インターで高速を降りると、さらに国道20号を山梨方面へ向かい、上野原についた。上野原の街を抜けて北へ向かい山の中に入ってゆく。
甲州建設という看板の前で止まる。道路に面して砂利を敷いた広い敷地があり、プレハブの事務所がたっている。
事務所に入ると、大柄で、浅黒く日焼けした50代くらいの男がいた。
「遠藤社長お世話になります。山川から聞いていると思いますが、この男です。金慶国と言います。」
「分かった、話は聞いている。後は、こちらでやっておくから大丈夫だ。安心しろと言っておいてくれ。」
「はい、分かりました。それでは宜しくお願いします。波多野さん、あんたここから逃げようなんて思うなよ。あんたの行動は監視されているからな。」
作業員風の男2人はそのまま帰っていった。
「遠藤さん、ここは何処なんですか?私はこれからどうなるんですか?」
「金さん、あんたはこれから、ここで働くことになる。まあ、事務仕事を任せたいところだけど、人目については困るので、当面は建設の現場作業になる。それから、波多野という名前はもう捨てなきゃだめだ。金慶国という名前も使ってはいけない。何か好きな名前はあるかい?」
「名前ですか?そうですねぇ、じゃあ川南一作でいいですか?」
「ああ、いいよ。でも、何故その名前がいいんだ?」
「昔、お世話になった人の名前です。」
「そうか、分かった。じゃあ、これからは川南一作だ。俺は遠藤宏だ、ここの社長をやっている。あんたはこれから、俺の会社の従業員だ。住まいは、プレハブの寮だが、一応個室になっている。宜しくな。」
「あ、はい、宜しくお願いします。」
――― 全く、とんでもないところに来たもんだ。建設現場の寮って、つまり飯場ってことだよな。これじゃ、いつ殺されるかわかったもんじゃない。だが、逃げ出そうにも、一体ここが、どこなのかもわからないし。参ったな。
結局、波多野はここで川南として当面は生き抜くことを覚悟した。