「その男は、今はどうしているのですか?」
「いや、そのトラブルで会社も倒産し、男とは音信不通になりました。勿論、探せば何処にいるのか分かったのかも知れませんが、私たちには探すつもりもありませんでした。響子は探そうとしたようですけど、探偵にでも頼まない限りは見つからなかったでしょう。
それよりも、その男のためにまだ学生だった響子まで保証人にされていたのです。幸い大金ではなかったので、それは私が整理しました。
そんな状態だったので、その男と連絡とって関わりを持とうなどとは、少なくとも私は思いませんでした。
父は響子の保証債務についても、放っておけと言い、なにも助けようとはしませんでした。
父には、先祖は武家の一族だったという誇りがありました。
その父から見れば、響子のしたことは到底受け入れ難いことだったのです。武家の娘が、妻子ある男の妾になって子供を宿した、昔なら自害すべき所だ、ぐらいに思ったのでしょう。
響子にとっても、大事な時に自分をかばってくれなかった父が絶対に許せなかったのだと思います。父に対しては、憎しみに近い怒りを持ったようです。
響子は結局家には戻ってきませんでした。
父には内緒で、母が響子の住まいを用意して面倒を見たようですが。
響子は、生活費を稼ぐために夜の仕事を始めました。
渋谷の神泉と言えば近くに円山町などもあり、夜の仕事は身近にあったのでしょう。初めはクラブとかキャバレーとか分かりませんが、たぶんホステスだったのだと思います。でも、妊娠していましたから、そんなに長くは勤められなかったのだと思います。
母から聞いた話では、お客の一人が親切にしてくれたそうです。」