晴海の港に船が着き、また出てゆく。何処から来て何処へ行くのか、船が着くたびに降りる人と、また乗る人が交差する。幾つかの小さなボートが遠く波の上を走ってゆく。
港を過ぎて、左手に白バイ隊の訓練をする様子が見える。右手のホテルの1階の窓からランチの食事をする人が見える。港を背にしてさらに進むと、林立するタワーマンションが見え、そこを過ぎれば古びた昔からの倉庫街がある。倉庫街の路地に入れば冬の日差しにさらされた鰹節から、茶色い湯気がたち昇りぼんやりと空気を滲ませる。その匂いが鼻腔をくすぐり体いっぱいに入ると、突然日常がよみがえった。
あぁそうだ、池袋に行かなければ、と用事を思い出す。その途端、あたりの景色は一変し、私は銀座の雑踏に立ち戻る。正面に西銀座のショッピングセンターが見える。後ろには銀座三丁目の交差点。ゆっくりと現在地を確認し、意識を呼び戻すと、道路を渡り地下鉄の入り口を降りていく。
うねうねと続く地下道は工事中の所為か、より一層狭く複雑に感じられる。日比谷線のホームを過ぎて、丸ノ内線へ向かう。やって来た電車に乗り込むと椅子に腰かけた。
先ほどまでの景色を思い返して、ぼんやりしていると、不意にドア付近に青い目の少女が立っている。少女は私に向かって「おじちゃん、船に乗らないの?何処へ行くの」と問いかけるので「おじちゃんは、しなければならない事があるんだよ。これから池袋に行くんだよ」と答える。
「お嬢ちゃんはどこへ行くの、一人なの?」と尋ねると、いつの間にか隣に座った人が「あんまり話していると、おかしな人に思われますよ」と言うので振り向くと、黒いコートの女性だった。「おばちゃんは、どこへ行くの?」と少女が尋ねるとその人が「おばちゃんじゃないでしょ、お姉ちゃんでしょ」と言う。