2001年 8月 1日(水) 東北自動車道
帰りの車中で、様々な思いを巡らせていたが、結局突き詰めるとそれは、『私とは誰か』という疑問に行き着いた。そもそも私は、初めての就職先で名刺というものを貰った時に、ついに自分もこんな紙切れになったのか、などと感じていた。自分が自分以外の者に限定される、ということが嫌だったのだ。だからと言って、それを除いて、私は誰々です、などと自称するほどの物もない。
結局、私は誰か、ということを自分自身分かっていないのである。
そう思っていると、ラジオからバッハのピアノ協奏曲かよくわからないが協奏曲第七番が流れてきた。クラッシックなどとは無縁だったのだが、この曲を聞いたその時は、まるで全身が雷に打たれたかのように思えた。『起立せよ!』と言われたような気がした。音楽というものを初めて知ったような気がした。
ロックやポップスや、あるいは歌謡曲やジャズや、とにかく音楽に対して、楽しいとか、好きだとか、嫌いだとか、悲しいとか、そのような感覚しか抱いたことはなかったのだが、その時は、何か美しい、素晴らしい、ものを感じ自分には届かない天上の世界というものがあるのだという気がした。
多分音楽に限らず、様々な芸術と言われるものがあるのだろう。それは、原始人が初めて文明というものに触れたような、何か美しい秩序、荘厳で厳粛なもの、まるで教会や、寺院や古びた神社の境内などに感じるものと似ていた。
そうやって、今までとは違う世界に近づいたような気がしていると、長い渋滞の列に捕まった。それは、初めは自然渋滞かと思い、次には事故なのかと思ったが、30分もすると、それが検問による渋滞だとわかった。
宇都宮付近だったと思うが、何が起きていたのかはわからなかった。
もう、深夜2時を過ぎていたのだが、南の空が赤く輝いていたのが見えた。