私たちがホテルに入ろうとしたとき、突然兵士が遮った。銃を突き付けられ、何か早口でまくし立てている。慌てて両手を頭の後ろに組んだ。彼らは許可証を見せろと言っているようだ。何の許可証なのか、そんなものを持っているはずもない。
翔が私に、緑色のカバンからコインを出すように言った。それを兵士に渡して、ようやく私たちはホテルに入ることができた。ここではお金が必要なのだ。
ホテルのラウンジで日本人のお坊さんに話を聞くことができた。彼は日本国の政府からの派遣で、長安で学問を修めるはずだった。しかし、来てみれば、長安は治安が乱れとても学問をする環境ではなくなっていた。そこで、敦煌へ行くつもりだったが、列車も動かなくなり途方に暮れているところだった。
ホテルの中は、静かで人々も落ち着いている。外では、騒乱が起きているのだがまるで、違う世界のようである。ゆったりしたソファーに腰を掛け紅茶を飲む。
窓の外にタワーがそびえたち最上部には雲がゆっくりとたなびいている。壁面は夕日のオレンジ色を反射してキラキラと金色に輝いている。しかし、そのタワーはすでに廃墟になっているという。かつての文明の残影に過ぎないのだ。チュルク人たちはそのタワーを使う術を知らず、放棄されたのだった。
そんな説明を聞きながら窓の外を見ていると、一瞬ヒトミの姿が見えた気がした。そんなはずはない、と思いながら紅茶に口を付けた。そして私はまた意識が離れていくのを感じた。
どうしようもないのだ、周囲の声が遠くなり、自分の中に深く入り込んでゆく。戻ろうとしても、自分では戻ることができない。深い海の底にゆっくりと沈んでいく感覚。それはまた妙に心地よくもあるのだ。私は黙ってその感覚に身を任せていた。
すると、声が聞こえてくる。遠い過去からか、それとも遠い未来の記憶なのか。気が付くと私は、廃墟となったタワーの中にいた。