貿易風で、私は安禄山とお茶を飲んでいた。
「安さん、仕事は順調ですか。」
「まあ、中華料理屋のアルバイトしかないけど、何とか食べていけるよ。」
「でも、この店も随分とお客が増えましたね、マスター。」
「ああ、そうなんだ。皆、安さんの友達なんだよ。外国人ばかりだけどね。ここで、みんな好き勝手に、自分達の故郷の料理を作って食べているんだよ。
皆、出稼ぎばかりだよ。喫茶店というよりは場所を貸しているだけで、店内のバーベキューみたいだよ。」
「マスターも料理を覚えて、エスニックレストランにしてみたらどうですか?」
「いや、実は料理は苦手なんだよね。コーヒーは作れるけど、他は僕には無理だね。」
安禄山が、急に思い出したように話す。
「そう言えば、この前アパートに若い男女が来て俺のことを調べていたみたいなんだ。それが芦名と名乗ったというんだ。」
「芦名?帰ってきたのかな。もう4か月くらいになるな。結局、どこへ行ったのか分からずじまいだったけど。翔は元気にしているの?」
「あいつは、勉強もせずに、遊びにも行かないで、一人で絵ばっかり描いているよ。変わった子だね。いつも黙っているし。」
「両親がいなくて淋しいのじゃないのかな。たまには、ここに連れてきたらどうですか?外国の料理も食べられるし、いつも中華じゃ飽きるんじゃないのかな。」
「そうだな、そうするよ。今度連れてこよう。」
「ところで、以前、安さんが話していた、ビルだけどね。」
マスターが、神妙な顔つきになって、話だした。
「池袋の高速の近くで青いビルがあったんだ。気になって、調べてみたら25階に世界統一平和教という宗教団体があったんだ。
本部はパキスタンらしい。教祖はブハラの出身だけど旧ソ連の崩壊の混乱で、パキスタンに逃げて、日本へは10年くらい前に来たらしい。
宇宙は善と悪の戦いの場で、自分は神の啓示を受けて、人類を救うために、戦っていると言っているらしい。」
私は、そんな話は信じられないと思った。
「今時、そんなことを信じる人がいるのかな。」
「でも、その人が手をかざすと、病気が治るというので、信者が増えているらしいよ。病気は悪で、病気にかかるのは、悪にこころが侵されているからで、その人が善の力を吹き込むことで悪を退治し病を治るというらしい。」
「治るのは病気だけですか?」
「いや、他にも事業に失敗した人には新しく仕事を世話してやり、借金に追われている人には借金を清算して、どこか別の処で生活できるようにしてやっているらしい。」
安禄山が驚いていう。
「へえ、それじゃあ凄く良い宗教じゃないですか。
でも、そんな、良いことづくめだなんて、怪しいな。お金は、どこから用意しているんだろう。新しい仕事とか、生活する場所なんてどうやって用意しているんですか?」
「それだけじゃない、行方不明になった人とか、死んだ人にも会えるという評判だ。でも、そこの信者になると、いつの間にか、どこか別の処に行ってしまって居なくなる、という話もある。」
「もしかすると、芦名や翔の母親の行方不明と関係があるのかも知れませんね。今度、そこへ行ってみませんか。」
私は、直接訪ねることを提案し、マスターも了解した。