八幡平は雲が低く垂れこめ、霧雨が降っていた。山を下ろうとするが、雲の様な霧の様な中を歩くため、前もよく見えず、足を滑らすことも多く、進む事もままならなかった。

「これじゃ温泉どころじゃない。どこか休むところはないのか?」ミトラが怒り気味に言う。

「休むと言っても、この雨だから、仕方ないじゃない。」私も不機嫌だった。

1時間程歩いていると、霧も晴れてきた。遠くに温泉の湯気のようなものが見える。

「ねえ、あれ見て。温泉の湯けむりじゃないの?」ナースティヤが温泉を見つけて喜んだ。

すると、翔が制して言った。「いや、あれは狼煙です。ご主人様。」

「狼煙?なぜこんな処で狼煙が上がるのだ?」

そう、ご主人様が言った途端、林の陰から日本人の兵隊らしき一行が来る。
「おい、お前たち、止まれ。赤鬼の一味か?」

赤鬼と呼ばれて、私たちは何のことかと、驚いて立ち止まった。

ご主人様が赤鬼とは何か、と尋ね返す。兵隊たちが言うには、蝦夷のことを赤鬼と呼んだらしい。

私が「赤鬼でも蝦夷でもありません。」というが、聞く耳を持たない。

「その人相風体は赤鬼に違いない。引っ立てろ。」隊長の様な男が命令する。

だが、その時、本物の蝦夷の一団が現れた。狼煙は彼らの合図だった様だ。

「蝦夷の反乱軍です。100名以上いそうです。どうしますか?」

「うぬ、一旦ここは引き上げるしかない。」

「この者たちは、如何致しましょうか?」

「やむを得ない、捨て置け。引き上げるぞ。」

日本人は去ったが、今度は蝦夷の一団である。

「ミトラどうする、戦うの?逃げるの?」私が尋ねるとミトラはやけになって応えた。

「だめだ。腹が減って、とても戦う気力がない。逃げる元気もない、どうとでもなれだ。」

私たちは、諦めて、その場に座り込んでしまった。そこへ、蝦夷の一団がやってきて「お前たちは、和人か?見かけない風体だが。」

ミトラが大声で答えた。「俺たちは唐からやって来た。旅の者だ。」

「唐からだと?粛慎か?しかし、粛慎にしては人相が違うな、何者だ?」

ミトラが再び答えた。「だから、唐から来たんだよ。粛慎何か知らないし、和人でもない。」

「首領様、こいつらどうしましょうか?」

「和人の手先かも知れない。捕らえて、人質にするとしよう。」