メスティアの教会で。
石を積み重ねて作られた教会は何処から見ても同じ正六面体であった。
薄暗い茶色と灰色の古めかしいその教会の、重そうな入り口の前まで来ると、セルナの脳にオリガの声が響いた。
教会のドアの先からがセルナの記憶の世界になっているという。セルナは少し緊張しながら、ドアを開けた。
中は暗く、明かりはいくつかのロウソクの灯だけだった。しかし、柱のそばに設けられた疎の燭台の灯はオレンジや、赤、黄色などのロウソクを浮かび上がらせ暗黒の宇宙に光る星のようであった。
燭台には羊皮紙に描かれ古代文字のようなものが見えたが、読み取ることはできなかった。ロウソクの周りには祈りの花が供えられていた。
壁面の上方に小さな窓があり明り取りかと思われるが、戦火の多いここでは、教会に隠れて籠城した際の通気口なのかもしれない。
暫くして暗闇に目が慣れてくると、部屋の奥の祭壇のそばに人がいた。祭壇の上部には聖マリヤのイコンと並んで、太陽の絵があった。太陽はその炎がぐるぐると渦を巻いていた。司祭と思われるその人は、こちらに気が付いたのか、祈祷の手を止めた。
司祭のその顔がこちらに振り向いた。その眼は燃える太陽のようであり、炎が渦を巻いていた。その渦巻きを見ているうちに、教会の壁全体がピンク色に輝き、回転するドリルで掘られたトンネルのようになり、私たちはその渦巻きに取り込まれた。
雷のように大きな声がした。気が付くと、教会の外にいて、コーカサスの山々が見えた。
その人は、何をしに来たのかと、尋ねた。セルナが答えて、事情を説明した。その人は、その書物のことは、知らないと言った。だが、求めるものがあるのならば、それは叶えられるとも言った。
その人が言うには、ここの人々は、はるか昔に南から来た。幾つもの時代が過ぎ去り、昔の風習も失われたが、太陽への信仰は変わらずにある。それは燃える炎への信仰であり、火が全ての悪を焼き払い浄化してくれることへの信仰である。
幾つもの帝国や軍隊がこの人々を苦しめたが、この人々を滅ぼすことはできなかった。それは、この人々の信仰の強さがあったからだという。
セルナに聞いた。「あなたは、その求めるものを信じていますか?」
セルナは、何を問われているのか?と思った。
『創世記』の話も、今のセルナにとっては知らないどこか遠い世界の話であった。
それを『信じているか?』と問われても、答えに窮したのである。