875年の世界に。
その頃中国では、唐で黄巣の乱が起こり、滅亡への坂道を下っていた。
モンゴル高原では、ウイグル帝国がキルギスに追われ、後にトルキスタンと呼ばれる西域地方に移動し、東西に分裂した。
かつてのソグディアナはマー・ワラー・アンナフルとアラビア語で呼ばれていた。
アラブ人は、イスラム教を根付かせるために占領した地域に植民し、アラブの守備兵と行政官が各民家の半分を占領して住み込み、住民がイスラム教の戒律を守るかどうか監視した。
それまでの仏教やマニ教、ゾロアスター教、キリスト教などの各教典は焼き払われた。
またイスラム教に改宗したものには税を免除し、そうでないものには人頭税を課した。
このような政策によってイスラム教は、強制的に押し付けられた。
その為、中央アジアにイスラム教が定着するためには18世紀まで千年の月日がかかり、その間何度も反乱が起きたのである。
875年、かつてバクトリア(今のアフガニスタン方面)のゾロアスター教神官の家系であったナスル1世はサマルカンドを首都としてサーマーン朝を開いた。
イランから西の方面はアッバース朝の支配下であり、サーマーン朝もその配下であったが、イスラム世界の東の防御壁としてチュルク人の侵入に対抗していた。
サマルカンドはその時代、比較的平和であったと言える。
その日、ロクサーヌはご主人様たちと、キャラバンのラクダや馬の世話をしていた。
そこへ、丁仙之とセルナが現れた。
「やあ、ロクサーヌ久しぶりだね。」
ミトラが言う。
「お前、丁仙之、何が久しぶりだ。一体何しに来たんだ。」
「お前、とはご挨拶だね。今日はロクサーヌに、新しい任務を伝えに来たんだよ。」
私ロクサーヌが言う。
「ちょっと待って、任務って、私はあなたに雇われたわけじゃないわよね。」
「まあ、本来はkが伝えるべき事だけどね。kは事情が当て動けないので、代わりに伝えに来たのだよ。今回は、ロクサーヌが以前あったことのあるペーシュウォーダの『創世記』という書物を探してもらいたいのだ。」
「ペーシュウォーダって、あの龍神様のこと?」
「そうだ、ただ今回は日本ではない。コーカサス地方またはメソポタミア地方に言ってもらうことになる。それで、ここにいるセルナ君だが、一緒に彼の実家へ行って探してもらいたいのだ。セルナ君、後は君から説明してくれ。」
「あ、はい。セルナと申します。よろしくお願いします。」
セルナ君が、これまでの経緯を説明した。
私はセルナ君に尋ねた。
「セルナ君は、実家がコーカサスなの?」
「あ、はい。コーカサスのメスティア村です。」
「どんなとこなの?」
「黒海寄りの地方で、塔のある村です。」
ご主人様が口をはさむ。
「それは、人々が塔のような家に住んでいるという村のことかな?」
「はい、そうです。家がみな塔になっていて大勢で住んでいるんです。」
ご主人様が言う。
「そうか、そこなら昔行ったことがある。しかし、かなりの田舎だったような気がするが、そんな所にあるのか?」
」それが、僕にもよくわからないのです。それで、皆様に一緒に探してもらいたいのです。」
私たちは、『創世記』を探しにコーカサスへ向かうことになった。