丁仙之は日本の研究チームに向かった。

 

『日本チームはまだ、タブレットのことも、彗星のことも、そして宇宙船団のことも知らないはずだ。どうやって、kの記憶データを起動させるように説明したものか。

 

先ずは、kの記憶データの起動ができるのか、その確認からだ。』

 

日本チームは、靖国神社にほど近い静かな通りにあった。

 

「高坂教授、ご無沙汰しています。CTUの丁仙之です。」

 

「やあ、久しぶりだね。ウシュパルク教授から、話は聞いているよ。kの記憶データのことだね。」

 

「ああ、はい、そうです。突然ですみませんが、起動できるでしょうか。」

 

「それなのだが、実はkの記憶は現在整理中なのだよ。」

 

 

「整理中と言いますと?」

 

「kの記憶データと言っても、あれは特殊なもので、k自身だと言ってもよいくらいだ。

つまり意識がそのままで残っていて、現在も動いているのだ。そして、k自らが言うには、過去の記憶を整理しているらしいのだよ。」

 

「どういう意味なのでしょうか?」

 

「彼は、ロクサーヌを作ってそれをシミュレーターの中で稼働させたのだが、その際に彼の意識も同調させていた。ところが、予想外なことに、我々には予想外だという意味だが、ロクサーヌは次元の異なる宇宙へ行き、別の歴史を経験してしまった。

 

kも同時に別の歴史を経験したのだが、それが彼の意識に過剰な負担をかけたようだ。

つまり、自分で理解することができないようなのだ。その為、彼は今ロクサーヌを作る以前の記憶を自ら復元させて、自分なりの理解をしようとしている。」

 

「自分なりの理解とは、実際には何をしているのですか?」

 

「彼は、彼自身の経験を物語にしようとしているのだ。断片的な記憶と分裂した人格、断絶した経験それらを統合しようとしているのだろう。」

 

「それは、成功するのでしょうか?」

 

「まあ、kだけにしかそれはわからないね。」

 

「それが、完成するまで、ロクサーヌを起動させることはできないのでしょうか?」

 

「そのロクサーヌの起動についても、私たちよりむしろウシュパルク教授の方が詳しいのではないかね。今、言えるのは、kは自分の中に入り込んでいるので、外部からのアクションに応答することが難しいということだ。」