夢の中のヨルダネス 5
「あのタブレットは、何のために作ったの?」
「あれは、僕の想いを残したくて作ったんだ。
僕がいた頃、ジームラ・ウントはいつも闘いの歴史だったんだ.もちろん誰も望んではいなかったと思うけど。実際には何千年もの間、争いがやむことはなかった。この世界に来て、このように平和で安らかな世界があることを知ったんだ。
それで、平和と安らぎを望む人に知らせようと思ったんだよ。でも、心の中に矛盾があった。この世界を知らせたいと思う一方で、隠しておきたいとも思ったんだ。誰もが知れば、同じ思いではない人も来てしまうからね。
それで、ここに来るのにふさわしいのかどうか、タブレットに判断させようと思った。初めは、ジームラ・ウントの歴史を記録するつもりだった。その戦いの歴史を知れば、人は平和を望むだろうと思ったんだ。でも、歴史を調べているうちに、違うのではないかと思うようになった。
歴史は、人々の生活の集合でその結果なのだけれど、でも事実と人の想いは違っているのではないか?
例えば、ある人が闘いで死んだ、それは事実だけどその人はどういう思いで死んだのか?それは結局わからないままなのではないか?殺された方が敗者で、殺した方が勝者とは言い切れないのではないか。
ある国が戦争で滅びた、勝った方が歴史に残った。でも、そこに生きていた人はどうなのだろうか。誇りある死を選んだのかも知れない。言葉で残された記録、あるいは伝説はあるけれども、真実は分からない。
そんな風に思うと、歴史は一つではないのではないか、と思えてきたんだ。だから、どのような歴史を選ぶのか、それはそれを読む人がどのように生きたいのか。そのことによって変わるのではないか?そんな風に思えてきたんだ。
そんな思いであのタブレットを作ったんだよ。でもぼくが最初に作った後で、多くの人がその続きを作ったようだけどね。
そして、僕は僕自身をあのタブレットに閉じ込めたんだ。
それは、タブレットに導かれてきた人をルーム・ノヴァスに案内するためだ。
争いを望む人はここの世界には来られないようにと考えたんだよ。」