「卯年は跳ねる」という相場格言通りにならなかった2011年の株式相場でしたが、あらためて今年1年を簡単に振り返ってみたいと思います。

2011年の株式相場は大きく3つの局面に分けられます。「1.震災前(過剰流動性相場の継続)」、「2.震災後~サプライチェーン復旧の動き」、「3.夏場以降に相次いだ悪化材料」です。

2011年のスタートは、前年(2010年)に導入された米国追加金融緩和第2弾(QE2)を背景とした過剰流動性相場によって上昇基調が続く格好となりました。中東・北アフリカ情勢による地政学的リスクが意識されながらも、日経平均 は2月17日の取引時間中に10,891円をつけ、これが年初来高値となりました(終値ベースでは2月21日の10,857円が年初来高値)。その後は調整含みが続きましたが、比較的堅調に推移していたと言えます。

こうした流れが大きく変わったのが、3月11日、取引時間終了間際に襲った東日本大震災です。地震と津波による甚大な被害は週明けの株式相場の急落をもたらしました。日経平均は、14日(月)終値で10,000円を割り込み、15日(火)には歴代3番目となる10.55%の下落率となり、一時、8,227円まで下落する場面もありました。

急落がひとまず落ち着いた後は、深刻化する福島第一原発事故の動向や電力不足、製造業の供給網(サプライチェーン)復旧をにらみながらの動きとなり、9,000円台半ばを中心とするレンジ相場が3カ月近く続きましたが、 想定よりも早いペースで進んだサプライチェーンの復旧や、見送られていた企業の業績予想が開示され始めたことで、震災の影響に対して一応の目処が立ち、株価は6月下旬から上昇しました。日経平均は7月8日の取引時間中に10,200円台を回復し、震災前に迫る水準まで値を戻す展開になりました。

しかし、夏場以降は悪材料が相次ぎます。欧州問題の長期化と拡大、債務上限引き上げ問題や赤字削減法案、給与減税法案継続を巡って混迷する米国議会、タイの洪水被害による影響、中国をはじめとする新興国の景気減速懸念、オリンパス(7733)大王製紙(3880) など日本企業に対するコーポレートガバナンス(企業統治)問題、震災以降続く為替相場の円高基調など、明るい材料がなかなか見当たらない中で、投資家はリスク回避の動きを強め、株式市場は下値を探る展開となりました。結局、日経平均は11月25日に8,135円まで下落し、震災直後の安値(8,227円)をも下回ってしまいました。

特に欧州の問題は、6月にギリシャの財政再建の遅れや同国への支援がもたついたことをきっかけに再燃。ギリシャの実質デフォルトが確実視される中、問題の長期化が周辺国にも影響を与え、スペインやイタリアまで懸念が広がったほか、ついにはフランスの格下げ観測が出るなど中心国にも波及したことで、世界的な金融システムの問題に発展しています。欧州当局は、EFSF(欧州金融安定化基金)の機能拡充や包括戦略の合意をはじめ、2013年に予定していたESM(欧州安定メカニズム)を2012年に前倒しで発足させるなど対応策は打ち出しているものの、危機が表面化する度に、慌ててその対処を取りまとめるという印象が拭えず、中長期的な懸念を払拭するには至っていません。

このような状況の中で、楽天証券内の年間売買代金ランキング上位は次の通りになりました.

順位 コード 銘柄名
1 9501 東京電力
2 8316 三井住友フィナンシャルG
3 3632 グリー
4 9984 ソフトバンク
5 7203 トヨタ自動車
6 7974 任 天 堂
7 8411 みずほフィナンシャルG
8 6301 小松製作所
9 2432 ディー・エヌ・エー
10 7733 オリンパス
11 4751 サイバーエージェント
12 6501 日 立
13 8306 三菱UFJフィナンシャルG
14 6758 ソ ニ ー
15 6502 東 芝
16 6954 ファナック
17 8058 三菱商事
18 7267 本田技研
19 8574 プロミス
20 8031 三井物産

ランキングのトップは東京電力でした。ディフェンシブ優良銘柄の代表格だった同銘柄は震災以降に大きく性格を変え、日々株価が変動する銘柄となり、短期の取引が集中して売買が急増しました。震災後は復興関連株、代替自然エネルギー関連株、節電関連株なども物色されましたがテーマとしては単発的なものとなりました。また、メガバンク株や中国関連株のコマツ(6301)ファナック(6954) 、主力輸出株のトヨタ(7203)任天堂(7974)ソニー(6758) など、ランクインしている主力株の多くが夏場以降の相場の低迷により株価再浮上のきっかけが掴めない中、値動きの軽い中低位株や個別の材料株を物色する動き中心となりました。とりわけ、年後半はグリー(3632)ディー・エヌ・エー(2432) のSNS関連株やオリンパス(7733) が常に上位にランクインする状況が続きました。

2012年は、欧州の問題や世界的な景気減速懸念(特に米国と中国)など、2011年の課題の多くを持ち越してのスタートとなります。さらに、2月のギリシャ議会選挙をはじめ、5月のフランス大統領選挙や10月(予定)の中国共産党党大会、11月の米国大統領・両院議会選挙など、主要国の政治イベントが集中する年でもあります。現在抱えている問題の改善には政治の決定力が不可欠ですが、新政権の運営方針などイベントの結果によっては、情勢が良悪どちらにも大きく変わる可能性があります。リーダーシップや議席獲得数など、政権基盤の強さにも注目が集まると思われます。

市場が正常に機能していれば、市場参加者は全て自己の責任においてリスクとリターンを判断し、投資に関わる判断をしている筈です。予めリスクに対する覚悟が出来ていれば、例えそのリスクが現実のものとなったとしてもショックに発展する事はありません。通常は、よりリスク・リターンの関係が改善した状態になるため、新たにリスクを担ってくれる別の投資家が次々と現れてくるからです。しかししばしば、リスクの担い手とリターンを得る主体が一致しない状況が、意図的に、又は意図せざる所で出来上がってしまう事があります。そしてその状況が長引けば長引くほど問題のマグマが大きくなる。それが爆発して起こるのが金融ショックです。

例えば2008年9月に破綻した政府系住宅金融機関のケース。政府系住宅金融機関を示す略語GSEのSはSponsored(発起した)という意味です。要するに単に政府が発起して出来たというだけで、政府の機関でも、政府が保証している機関でもないのです。しかし市場は長年誤りを続け、政府系住宅金融機関が発行する債券は、あたかも政府の保証が付いているかのような水準の利回りで取引されていたのです。実際に政府が保証してくれているものではないと市場が気付き始めたのは実質破綻の数ヶ月前。結局アメリカ政府はパニックを抑えるため、債権者に対して元々市場が考えていた通りの扱い、即ち政府の全面保証という形を取らざるを得なくなりました。この結果、これまで政府系住宅金融機関には約12兆円の税金が投入されています。

その翌週に破綻したリーマン・ショックのケースで言うと、市場は「大きい金融機関は政府が救済してくれるだろう」という、要するにリスクは政府が担ってくれるという、誤った期待の下にリーマン・ブラザーズと取引していたのです。実際にリーマンが破綻して初めて「大きい金融機関でも救済してもらえないんだ」という認識が市場に広がり、次々に大手金融機関に危機が波及していくに至ったのです。そして2009年3月に財務省が大手19行を保護する、即ち「やっぱり大きい金融機関は救済する」と宣言するまで危機が収まる事はありませんでした。

ここ数年、金融ショックの頻度が増加しており、その度に「XXファンドが空売りしたから」「YYがショックを仕掛けた」等の論調が見られます。しかし繰り返しになりますが、金融ショックはそんな事で起こるものではありません。金融ショックはこれまで何年にもわたって積み上げられてきた、上記のような「市場の誤り」がそもそもの原因なのであり、ショックはそのような誤りを正しい方向に修正する動きなのです。XXファンドはむしろ、そのような正しい方向に修正する動きを促したという点で、マグマがさらに大きくなるのを防ぐという、非常に重要な役割を果たしていたと言えます。

規制等によりそのような「市場の誤り」を修正する事も必要だったでしょう。政府系住宅金融機関には、政府から保証を受けているようなフリをして低金利で資金を調達するという特権を利用させない、又はそのような状態を放置しない事が必要だったのです。「大手金融機関なら潰れない」という市場の期待を、そもそも持たせないようにしておけば、リーマンショックは起きなかったでしょう。しかし実際には、住宅ローンが低金利で借りられれば誰もがハッピーだし、大手金融機関が安定していれば金融システムを強固な状態に維持できます。政治的に不人気な税金投入もしなくて済みます。要するにこれまで、政治、規制当局を含め多くの主体がこのような「市場の誤り」に気付いていても、ハッピーだから、楽だから、便利だからと言って、そのまま放置してきた結果がこれらの金融ショックなのです。

欧州金融危機についても同様の事が言えます。金融危機前まで、ユーロ加盟国の国債の利回りはどこも殆ど同じ水準で取引されていました。要するに市場は「もし何かあっても他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待を持っていた事になります。ギリシャやポルトガルが低金利で資金を調達できれば周辺国の景気浮揚にも貢献します。もともと危機に瀕する国が出てきた際、加盟国が救済するという確約は政治的に不人気で出来なかったけれども、そのような「市場の誤り」を利用する事はユーロ加盟国にとってメリットがあったので、それを修正する動きが出てこなかったのでしょう。

しかし実際にギリシャ危機が起こってみると救済案を巡って各国政府の思惑は様々。すったもんだの挙句ようやく救済案で合意に達しても、上限金額が決められているので、これまで市場が当然の如く信じていた「他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待は元には戻りません。リーマンショック同様、市場が「こんな筈じゃなかった」とショックを起こしている訳ですから、これを収めるには市場が期待していた元の状態、即ち「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」に戻すしかないのです。

もっとも自国通貨建てで国債を発行できるアメリカや日本に比べるとユーロにはハンディがあります。何故ならアメリカや日本は、いざとなったら通貨を印刷して国債返済を求める投資家に渡せば良いのですが、現状のユーロではそうはいきません。しかし私は、最終的にはECB(ヨーロッパ中央銀行)を利用して、アメリカや日本のように通貨の印刷同然の行為を可能にするのではないかと見ています。そして実質的に「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」という状態に戻していく可能性が高いと考えています。逆にユーロが今の危機を乗り切る道はそれくらいしか残されていないからです。アメリカの金融危機時の例を見る限り、ユーロ加盟国がそういう思い切った決断をするまで、危機やショックが収まる事はないでしょう。

(2011年12月27日記)

皆さんはこんな新聞やTVの市況を見たり聞いたりした事はありませんか?

「ヘッジファンドが買ったから上がった」「売りを仕掛けたから下がった」

率直に申し上げて、これらは日本でのみ見られる市況の表現で、海外で殆ど見かける事はありません。そして当事者の方には申し訳ないですが、これらはかなり残念な表現と言わざるを得ません。

理由として第一に、ヘッジファンドは世界に何千もあります。中には下落相場でも買っているヘッジファンドがある筈です。それでもヘッジファンドの売りが理由で下落していると報道するのであれば、過半数のヘッジファンドをリアルタイムで取材したという根拠がなければならないでしょう。数からしても秘密保持原則からしても、これは明らかに非現実的です。第二に私の経験では、例えば相場が大きく下落するのは、誰かが売りを仕掛けている時というよりも、買う人が殆どいなくなっている時です。相場が大きく下がるとよく投機筋のせいにされますが、殆どの場合、相場下落の本質は買い手が不在である事、即ち「貴方が買わない(何もしない)から」なのです。

2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機においても同じです。確かに中には、2008年の金融危機時、住宅ローン証券の空売りで利益を上げたポールソン氏のような、分かりやすい例はあります。しかし当時、そもそも住宅ローン証券を空売りする手段など殆ど無く、ポールソン氏のケースも証券会社にわざわざそのような商品を限られた金額分だけ作ってもらって空売りできたのが実情です。住宅ローン証券全体の相場が急落となったのは、誰かが売りを仕掛けたというよりも、下落の過程で買い手が殆ど現れなかったからなのです。

ここ数年続いている円高を例に取ってみましょう。アメリカでは金融危機を受けて2009年初に約70兆円に上るオバマ景気対策と共に、約150兆円に上る第一弾量的金融緩和(QE1)が実施されました。さらに去年は約40兆円に上るブッシュ減税延長と共に、約50兆円に上る第二弾量的金融緩和(QE2)が実施されました。アメリカ政府は国債を発行して財政で国民にお金をばら撒きますが、その国債はFRBが購入したので、結果的にドル札を印刷して配ったのと同じです。恐らくアメリカ国民一人当たり合計50万円ほどのドル札が印刷され、「為替市場で売れるほど」ドルを十分持つに至ったのです。ドルが余ったから売ったとも言えますし、需要と供給の関係でドルが下がったとも言えるでしょう。

一方日本はどうでしょう? 日本政府は相変わらず「円高は投機のせい」と勘違いして円売り介入を続けています。この勘違いは外国為替資金特別会計に発生している40兆円もの為替損という巨額の代償となって表れてきています。それでは円高の本当の理由は何なのでしょうか?簡単に言えば、皆さんが為替市場で、上記のドル売りに立ち向かうほど十分な円売りをしないからです。しかしそれは皆さんが、為替市場で売れるほど十分な量の円を持っていないから。だから本来は、日本政府は円高を投機のせいにするのではなく「日本国民が円を売らない(又は何もしない)からだ」と自国民を批判しなければならないのです。そうなれば皆さんは即座に日本政府に反論するべきです。アメリカもヨーロッパも中国も自国民に十分な通貨を与えている中、日本政府だけは通貨を与えてくれないからだ、と。

2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機でも、いまだにヘッジファンドが仕掛けたから等の表現が散見されます。欧州債務危機においては、いち早く投機筋の仕掛けが原因と誤解したフランス、イタリア、スペイン等が金融銘柄の空売り規制を実施しました。しかし当然の事ながらそんな事で金融銘柄の下落が止まるはずがありません。何故なら金融銘柄の下落はそもそも、誰かが空売りしているからというよりも金融銘柄を買う人がいなくなっているからであり、それは当該金融機関のファンダメンタルズが問題だからです。ファンダメンタルズを改善しない限り、空売り規制のような小手先の対応をやっても全く問題の解決にならないし、短期的に効果があったように見えて根本的な欧州債務問題の解決が後手後手に回ったという点では、為替介入と同様、むしろ有害なのです。

市場が正常に機能している時は、相場が下落しても、実はその相場下落自体が問題の解決につながるケースが殆どです。例えば景気の弱い国の通貨が下落する事によって輸出競争力が高まり、延いては景気回復に貢献します。住宅価格は下落する事によってより多くの人が購入できるようになり、自然に下げ止まります。これが市場の自動調節機能です。しかし中には、相場の下落が他の問題を併発してしまい、金融市場に大きなショックとなって表れてくる事があります。しかしこれは市場というシステムが問題なのではなくて、実は正常な市場の機能を阻害する何かが存在しているからなのです。2008年アメリカの金融危機や、現在進行中の欧州債務危機がこれに当たります。それではこれらの金融ショックは何が問題で市場の自動調節機能が働かなくなってしまったのでしょうか。誰かが売りを仕掛けたから、と勘違いを繰り返し、この市場の本来の機能を阻害する問題の本質を理解しなければ、いつまでたっても金融ショックは繰り返される事でしょう。次号ではその本質について書かせていただきたいと思います。

(2011年11月23日記)