これからの季節、出会いたくない害虫にでくわすことになる。
去年はここで暮らしはじめて、小さいのからどでかいのまで総勢10回は見た気がする。
この世で接したことのある害虫でいちばん苦手なのはカメムシ。わたしの田舎じゃホウムシと呼ばれてる。
幼い頃、祖母に近くにおっても吐息でほうほうすると臭いを出さないと教えられた気がする。記憶が曖昧だけれど。
他にも、米びつにわくうじ虫は悪い虫じゃない、と。
一斗缶を開けるとある時期はそれはうごめく虫をみた。
おばあちゃんはそれらも一合桝ですくって水で流すと浮いてきて流れていった。死骸は何度も研ぐうちに流れていく。
昔はそれほど精米率も高くなかったので、幾度かの米のとぎ汁に混ざって死骸が流れていくのを見て興奮した。
おばあちゃんが言うことは信じられた。
電気釜になって保温なる機能がついたが夕方になると季節によって臭くなる。
おばあちゃんはそれを洗って焼き飯にして食べさせてくれた。
一粒とてお百姓さんが大事に育ててくれたお米を残しちゃダメだとこんこんと言われた。眼がつぶれると言われると本当にそんな祟りのような目に遇うのかと、きれいにお箸で食べるくせがついた。
太古、誰が言ったか知らないが【鉄は熱いうちに打て】はあらゆることに通じる。おばあちゃんが言ったことはすっすとはいってきた。
それはいいとして。
ゴキブリは大きな家では脅威ではなかった。
けれど一間だけのこの家で黒い、しかもどでかいのががさがさ走り回ると気がおかしくなりそう。
高層階に住んでいた頃、元々同居人が大のゴキブリ嫌いでたまに出没すると、ホラー映画の主役になれそうな絶叫をした。
ホウムシじゃあるまいしムカデじゃあるまいしスズメバチじゃあるまいしと、呆れた。
けれどガクガクブルブル震えてわたしにしがみつく彼女を見ていると、おかあさん退治します!という義憤に駆られた。
翌日ゴキジェットを買ってきて次の出現に備えたらその晩またぎゃあああああああああ~。
眠っていたが、深夜とびおきると同居人がガタガタガタブルブル自分の部屋から逃げ出していた。
部屋にはいってもいいか確認してゴキジェットをつかんでそっと入った。
居た。シューーーーーッ。
わたしだって怖い。ゴキブリより彼女の絶叫に殺されると思った。
DVという長年の暴力で、とっさの対応力が鈍っている上、夫によくやられたことで、悲鳴は本当に耐えられなかった。
ここに越してきた時、どういう清掃が施工されていたのかと、疑問に思った。フローリングはわたしが何度マイペット入りの雑巾で拭いても真っ黒になった。トイレのフタには滅菌済みの帯はあるがフタを開けると前住人かその前の住人かの水底にうんこがこびりついてる。
嘘でしょうこれでプロの清掃が入った後なんて。
でも、わたしは黙々と掃除を続けた。
わたしのお城だから。外の雑草も何度か刈った。
ゴキジェットも買ったが、すばしっこいゴキブリを逃がしそこなうことがあってはと、YouTubeでオススメされていたブラックキャップを購入した。
12個入りだが足りない気がして、もうひと箱買った。
今年は始めから2箱買ったが、心許ない。去年の24個はすべてをは回収できず(どこに置いたかすべては思い出せず)、今年のブラックキャップには小さなシールを貼った。
万が一、この先去年のを見つけても今年のと間違わないように。
田舎では姉の気がおかしくなるほどホウムシが大量発生したそうだ。関西より西はほぼホウムシは出現する。
東京に暮らしていて幸せなことの一つにホウムシ、蜂、ムカデ、アブにほぼ遭遇しない。
全般的に虫がこわい。蝶も蛾もてんとう虫もカエルも蜘蛛も怖い。
オオサンショウウオが蜘蛛はゴキブリを食べてくれると言ったので見ても殺さなくなった。
しかしわたしの田舎にはばかでかい蜘蛛がいる。あれはむり。
ギャアギャアと言う姉や私に、義兄は『なんばいでかい図体してからに、つまらんのう』と言い、共存していかにゃあと諭した。
蜂に出会ったらじーっとしとけと。できるかいや。
しかし、オオサンショウウオが言うには、蜂はじっとしてれば刺さないのは事実という。勿論、巣を図らずも攻撃してしまうような形になった場合は該当しない。
騒いで逃げ回れば敵も怖い、敵と見なして攻撃してくるのだという。
ホウムシの大量発生はわたしを田舎に帰らせない。無理だ。
いまはのきわの母の訪問医の診察中、一匹のホウムシが旋回して飛んで、わたしは腰の骨を折って動けない状態で杖をついてさえ悲鳴を上げて逃げた。
死までそう時間のなかった母にええかげんせえ!と生きる気力を取り戻させて叱責された。
それほど、ムリ。
ムリはムリ。
東京がホウムシに汚染されたらもうマジである意味わたしは生きていけない気がする。
ブラックキャップ24個で足りるかなぁ。
姉に言わせればゴキブリなんかかわいいもんじゃ。攻撃してこんわー。
え?!ホウムシも攻撃はしないがね。あの臭い、スゲェ生存のための武器。
もしわたしにも、人間であれど武器を一つ授けられるなら爪先から思う時に毒が出ればいい。必殺の毒液がでればいいな~。
今日は湿度が高い。室内干しじゃ乾かない。既に生乾きの匂い。
あーつら。
明後日はカウンセリングと診察。
一部屋でさえ片付けができないわたしは無能極まりない虫だ。掃除機が欲しい。
これから、破れた箇所のカーテンをマジで繕う。
ブラックキャップ開封したときの匂いが強烈で雨で閉めきってるから湿度も併せてわたしがやられそうだ。
義兄のようなクロコダンディーのごとき精神もなく、アレルギーは増えるばかり。生きるのが相当たいへんな私。