私、もしかしたら入院が必要かもらしい。

今入院なんてできるわけがない。裁判中だもの。

ただ、ひどい不眠と極度の緊張の後の過眠の波があって、24時間の人間らしい生活、ほぼ送れてない。

唯一、弁護士との打ち合わせは数日の不眠と緊張の果て、ネズミスローモーションで東京の端から端まで行く。


途中、過呼吸が起きても、パニック発作が起きてもいいように、通常家から弁護士事務所まで2時間みとけば十分行ける距離、乗り換えだが、私の場合パニック発作が起きないよう、予期不安というかいろんな不慮の事故やら自分の発作が起きたら電車を降りてデパスを飲んで休憩しなくちゃないけないので、最低5時間は必要。


なのでこの弁護士との打ち合わせが一番つらい。

夫の弁護士を通じて、あった事実はことごとく否定ないし争う姿勢で、私が結婚生活の中で夫が私に示していた態度、言動、文字をもう一度、否、何度も何度も繰り返し答弁書を読まなくてはならない。

身体の【痛み】は年月とともに記憶から薄れはする。

けれど、夫の暴力で徹底的にたたきのめされたあとの、夫のフローリングを擦りながら歩くスリッパの音、居間での襖ごしに聞こえる深いため息、家を無言ででていく音、スリッパを自分の部屋の前に揃えてドアをきっちり閉めていく。


《オレは居るよ、部屋に。なにも言うなよ。》、の合図。

バイクの鍵はない。玄関の鍵は開けたまま。

私がひとり家に夜中まで居るのに、鍵さえかけずそっと家をでていく。

私の安全には夫は感心ない。

約束の予約時間までに、間に合わなくてはならない。

心臓の血流をよくする薬を服用し、青もの野菜や納豆は一切食べない。徹底していた。

その男が、血流を一時的に止めてむりやり勃起させて、鍵もかけずでていく。

皆勤賞を狙うからね。のメールもみた。

皆勤賞。

反吐。

おぞましい語彙を知らないのでそれしか浮かばない。

身体じゅうの、皮膚の全穴から出血し続けているような痛みと、頻拍と、ふるえと、怒りというものがあった気がする。


お気に入り嬢の出勤日、【皆勤賞を狙う】宣言と、自室前に整然と揃えられた日は一致していたろう。

てめぇガタガタ言ったら『アレ』が待ってるからな。の無言の脅迫。圧力。

夫らしい仕打ち。

DVの闇は密室の中で、コントロール関係が人知れず完了していること。

家族内のDVは被害者も秘密を守る脳になる。


暴力は回数じゃない。


死ぬほどたたきのめされ家から締め出され、冬の寒い夕刻、数時間玄関の戸口でチェーンをかけられた状態で、わずかの隙間から部屋の中の夫へ聞こえるように赦しが出るまで大声で『申し訳ありませんでした』と、くりかえす。

大相撲の視聴に興じてる夫が見える。

時々抑揚のない声で『声が小さい!やりなおし!』


●申し訳ありませんでした、1000回ワンセット●。

ゼロにクリアする。要は夫の気の済むまで。


そうした主従の完璧な圧倒的行為のくりかえしは、自分の価値なんてもの考えることもなく、数十年間夫と暮らせば自然に受け入れるようになる。

ため息も足音も咳ばらいも暴力同等。その、脳の変化こそ暴力が世間で理解されにくい理由でもあると思う。


背後からの跳び蹴りが、わたしの意識として終りの日だった。

死んでいたか半身不随になっていたであろうことを躊躇なくした夫の顔はわすれない。


5年間レンテンローズのように笑いながら、相槌を打ちながら、不貞を歩く夫を知りながら、犯罪を犯して警察署から帰宅した朝も、うんうんと相槌を打った。

こころが0度以上に一度たりとも上昇することはなかった。


夫はその5年間、独身男でもそこまで遊び回らないだろうと言うほど風俗関係のサイトを見てはスマホを片時も離さずスリッパを自室前に揃えて出て行った。


思い出話じゃない。

夢に夫が毎回侵入してくる。

浅い短い眠りの中に、毎回のように。

家を出て二年近く経ち、居るはずのない夫の恐怖に怯える。

早く終りたい。


決意なんて意味はないからね。

結婚前から違う道を選ぶ選択肢はあった。

想いではなく、現実だけをみて判断すること。

彼の、相手のすべてを。


わたしは神様に約束した。

どんな苦労もあのひとと伴に生きます。

苦労とは?


苦労は単純な数でも種類でもない。

ユダはいちど赦された。

赦しとは。


DVの玄関を開ける日は、赦しの無力を知る日。



最後に、事実のみをいつも綴ってはいるが、結婚なんて制度は今思うことは必要なのだろうか。

私が知る狭い世界ではあるが、しあわせという瞬間のよろこびと、長い結婚生活の辛苦をともにし、裏切り裏切られ、騙し隠しあいの道程は、オチのない救いのないコントそのもののように思う。