ちょっと間が空いてしまい、久しぶりの更新です。

昨日、ちょっとした会議がありまして、御茶の水に出向いたのですが、帰りに覗いた三省堂で平積みになっているのは「首都圏消滅」なる本。

まったくエー加減にせえよ。


イギリス・ガーディアン紙のコラムニスト・George Monbiot氏の寄稿(http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/apr/05/anti-nuclear-lobby-misled-world ) 


ガーディアン紙は左派系の高級紙です。イギリスには「報道の中立」なんて幻想はないので、日本の某A新聞なんかよりも過激になりがち。Monbiot氏もかなり過激な環境保護活動家です。ワシントン条約会議で大西洋マグロ禁輸措置が否決された時には、「日本が金で票を買いやがった!」と紙上で怒りをぶちまけていました。が、Monbiot氏だけでなく、今回の原発報道に関しては、冷静に見れば、放射能に関して、今慌てる必要はないという論調です。


この記事で述べらている2人のdebateもチェックしたのですが(http://www.democracynow.org/2011/3/30/prescription_for_survival_a_debate_on )、ヘレン・コリディコット女史、「IAEAもWHOも国連科学委員会もみーんな嘘ついてんのよ!」という主張を繰り広げてます。ちょっとありえないようにも思えるけど、反核運動家の多くは、このような論旨に頼っているようです。「日本政府が言ってることも、東電が言ってることもぜーんぶ嘘なんだ、本当はもう日本はもうおしまいなんだ!」とかいう人も日本にはいるようだからなーと思ったり。



結局、人は「事実を信じる」のではなく「信じたいものを信じる」ってことなのでしょうか?


(ちなみに、日本政府が信じられない人はこのページを見てみてはいかかがでしょう?大好きなアメリカ政府の見解です→http://plixi.com/p/89945905)


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この2週間私は、本当に悩ましい発見をした。私もかってはその一員であった反核運動は、放射能の健康への影響に関して、世界を欺いているのだ。私たちがおこなってきた主張は科学的な根拠がなく、検証してみると、支持できるものではないし、大きく間違っている。私たちは他人にも、自分たち自身にもひどい害を与えてきたのだ。



私は、ヘレン・コリディコット氏と議論をした後で、この問題の広がりに気づき始めた。コリディコット博士は世界で先頭に立つ反核運動家だ。彼女は21の名誉学位を受け、多くの賞も得ており、ノーベル平和賞にもノミネートされた。他の環境保護論者同様、私は彼女を崇拝していた。だが、この議論の中で、彼女は放射能についての危険についていくつかの驚くべき発言をした。それで、私は問題のある科学的な主張に直面すれば誰もがするであろうことをした:私はソースを求めたのだ。コリディコット氏の反応に非常に心乱された。



まず最初に、彼女は私に9つの文書を送ってきた:新聞記事、報道発表に広告だ。科学的な発表はひとつもない。そして彼女が行った主張を含むソースもひとつもない。だが、報道発表の一つは、全米科学アカデミーによる報告書のことを述べており、彼女はそれを私に読むように勧めていた。それで、私はそうした。423ページ、すべてを読んだ。だが、それは私が質問を発した彼女の発言を支持するものではなかった。それどころか、放射能の健康への影響についての彼女の主張とはまったく矛盾するものだ。



私は彼女にさらにソースを求め、彼女は私に答えてくれたが、それは私の心を沈ませるものだった。たいていの場合、それらのソースはほとんど、あるいはまったく科学的なものではない出版物に触れたものであり、彼女の主張を支持しないようなものであり、あるいは彼女の主張と矛盾するものであった。彼女の本“Nuclear Power Is Not the Answer”(訳注:原子力では問題解決にならないー邦訳なし)を読んだ。科学論文への言及がほとんどなく、ソースのない主張が多いことに私は驚いた。

過去25年間、反核運動家たちは、チェルノブイリ事故が原因の死と病気の統計で得点を稼ぎ、中世のサーカスのように奇形児を見せびらかしてきた。彼らは、チェルノブイリで985千人の人が殺されたと主張し、これから何世代にもわたって人々を抹殺し続けるだろうとも主張する。こうした主張は間違っている。


Unscear(原子放射線の影響に関する国連科学委員会」)は、(温暖化問題で言えば)IPCC(「気候変動に関する政府間パネル」)に相当する機関である。IPCC同様、世界中の主要な科学者たちに、何千もの論文を評価して、レポートを作成するように求めている。以下はそのレポートがチェルノブイリの影響について述べていることだ。


チェルノブイリで緊急の封じ込めに参加した作業員のうち、134人が放射線による急性障害にかかった。28人は間もなく亡くなった。19人がのちに亡くなったが、大体は放射能と直接関連する病気が原因ではなかった。残りの87人は他の合併症にかかっているが、その中には、2例の固形がんと2例の白血病が含まれている。

その他の一般の人たちの中では、小さな子供たちで6848の甲状腺がんの症例がある。「ほぼすべて」がソ連が人々にヨウ素131で汚染された牛乳を飲ませないようにしなかったことが原因だ。そのほかには「被ばくに原因が帰せられるような一般の人々への健康上の影響を示す有力な証拠はない」。チェルノブイリの影響を受けた国で暮らす人々は今日、「チェルノブイリ事故から深刻な健康上の影響を恐れて生きる必要はない」。



コリディコット氏は私に、このチェルノブイリ事故に関するレポートは、完全な「隠ぺい工作だ」と述べた。私は彼女に説明を求めたが、この主張に対する証拠を彼女は一片たりとも出していない。

先週のコラムで、ガーディアンの環境担当編集者であるジョン・ヴァイダルは原子力に関する私の立場を怒りに満ちた調子で非難した。2006年にウクライナを訪れた際、彼は、「奇形の、遺伝的に変異してしまった赤ちゃんたちにその地域で出会った......生育不全の思春期の子供、歪曲した胴、太ももや指のない胎児に」。彼が出会わなかったのは、これがチェルノブイリ事故と関連があるという証拠だ。



Unscearでチェルノブイリの健康への影響を調べているゲリー・トーマス教授は、誕生時の奇形児が増加しているという「証拠はまったく存在しない」と私に語っている。コリディコット博士が私に読むように言った全米科学アカデミーの論文も似たような結論に達している。放射能によって精子と卵子の突然変異が起こる危険性はあまりに低く、「突然変異は人間には見られないものだ。広島や長崎のような、放射能を浴びた人々を徹底的に調べても発見されていない」と結論付けている。



ヴァイダル氏や、ほかの多くの人たちと同様、コリディコット氏は一冊の本を私に提示したが、その本は985000人の人がチェルノブイリ事故の結果亡くなったと主張する。ロシア語からの翻訳で、ニューヨーク科学アカデミー時報によって出版されているこの本は、科学的に見え、なおかつ環境活動家たちによってなされるチェルノブイリに関する乱暴な主張を支持するものに思える唯一の本だ。



専門誌「放射線防護測定」の辛辣な書評は以下のように指摘している。この本はさまざまな病気―放射能との関連がまったく知られていないものを多く含んでいる―による死者の増加がチェルノブイリによって引き起こされているという、驚くべき想定でこの数字をはじき出している。この想定にはまったく基礎がない。というのも、チェルノブイリ事故後、多くの国で放射線除去技術が劇的に改善しており、また1986年以来旧ソ連・東欧圏では大きな変化があったからだ。この研究は被ばくと病気の発生との相関関係を見つける試みがまったくなされていない。



その数字の公表はニューヨーク科学アカデミー時報が出版社なのか、科学専門誌なのかをめぐる混乱から生じているようだ。ニューヨーク科学アカデミー時報は私に以下のコメントをだした。「ニューヨーク科学アカデミー時報およびニューヨーク科学アカデミーがこの仕事(訳注:チェルノブイリの死者を算定する仕事)を委託したという事実はまったくありません。また、その翻訳で述べられている主張、そこで引用されている出版物の主張を、当アカデミーが独自に実証するものではありません。この翻訳はニューヨーク科学アカデミーのメンバーによる検証はされておりませんし、その他の人間による検証もされていません。」



ソースを挙げることもできず、小話でデータを否定し、自分に都合のいい研究だけを利用して、科学的なコンセンサスを非難し、それを説明するために隠ぺいを使う。こうしたことすべて、ひどく見慣れたものだ。これは気候変化を否定する人たちのやり方であり、環境運動は科学を助けにして、勇敢にこういうやり方と闘ってきた。事実が自らの主張に合わないと、いつもは批判している隠ぺいという愚かな行為に訴えるということを発見して、痛ましい気分になる。

私たちは何かを判断する際に、手に入る限りもっとも良質な情報に基づく義務を負っている。これは、問題を公平に描写するには他人の助けが必要だから、という理由だけではなく、自分たちの生活をおとぎ話で無駄にしないようにするのは自らの義務でもあるからだ。大きな間違いがこの運動(=反核運動)によってなされている。私たちがそれを正さなければならない。