AERAの扇情的な中吊り広告にも頭には来ましたが、中身の分析をしようと思ったら買わなくちゃいけないし、それで売上げに貢献しちゃったらそれこそ中吊り広告の思うつぼだし、「ほっとくぞ!」と決めておりましたが、週刊朝日の方の記事はネットで無料配信されていますね(http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/asahi-20110323-04/6.htm )。で、さっそく中身を読ませてもらいましたが…、これはあまりにもヒドイのではないでしょうか?素人が読んで酷いとわかるぐらいだから、よっぽどだと思います。天下の朝日新聞社がこのような記事を垂れ流しているなんて、残念です。




①チェルノブイリと福島原発を規模「だけ」で比較して、「チェルノブイリより大きい」、とまるでチェルノブイリよりも悲惨な事故が起こりうるかのように構成されていますね。チェルノブイリとの形式の違い、設計の違い、現場の状況の違いについては一切触れられていません。このブログでも取り上げたBBCの記事には、チェルノブイリ級になる可能性は非常に低い、ということが書かれています(http://ameblo.jp/goyossie/page-4.html#main )。「チェルノブイリ級の爆発が起これば」という仮定をするのならば、「チェルノブイリ級の爆発が起こる可能性」についても言及しないと、いたずらに危機感をあおるだけの結果になると思うのですが。



②記事中で「京都大学原子炉実験所助教の今中哲二氏は、チェルノブイリは将来分も含め“死者”は、10万~20万人と指摘しており、万が一、日本でも首都圏に飛散すれば、大量の被害者が出る可能性がある。」との記述がありますが、この記述の元になっていると思われる資料を読むと、(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-2.pdf



『今の“私の勘”では、最終的な死者の数は 10 万人から20 万人くらい、その内半分が 放射線被曝によるもので、残りは事故の間接的な影響でしょう と答えることにしよう。もとより雑ぱくな議論であり、いい加減な仮定の基には それに見合った結論しか出てこないことは承知であるが、 よく分からないので無いことにしよう と結論するよりましな試みではないか、と思っている。』


と言う記述がみられます。この資料の中で、今中氏はこの数字には「事故処理作業に携わった人が将来への展望をなくしてアル中になって死んだら、彼もチェルノブイリの犠牲者でしょうね」といった、間接的な放射線被ばく以外の要因も含むことを示唆しています。御社の記事中では、放射能汚染に絞って話を進められていますから、この引用は明らかに歪曲です。



さらにもっともひどいことに、同資料を読めば、今中氏の言う「10万人」は「全世界の人口のうちの」10万人、という意味だということもわかるはずです。この資料には、


『本稿では、チェルノブイリ事故にともなう放射線被曝による全世界のガン死数は、2万~6万件としておこう。』


という記述があり、全世界に飛散したチェルノブイリからの放射能物質による被害という観点での記述(だからこそ『雑ぱくな議論』なのです)であることは明らかです。つまり全世界の人口60億のうちの10万人、ということです。これを、さも日本国内でこれから10万人も20万人もの人が亡くなりうるかのような文脈で、ここで引用するのは、明らかに「悪用」としかいいようがありません。


今中氏の議論はそれ自体意味のあるものだと思いますが、こんな形で引用されることで、その意味自体も台無しにされてしまうように思います。



③急性障害についても、晩発性障害についても数字がめちゃめちゃです。急性障害は記事中では「100~250ミリシーベルト超の被曝をすると、直後から数カ月以内に、めまいや嘔吐、脱毛などの症状が現れる。」となっていますが、これはおそらくは「1000ミリシーベルト~」の間違いだと思われます.。


(参照:http://www.hitachi-hgne.co.jp/nuclear/nuclear_image/moreinfo/safe_system/p_measure/a8.gif )



単純な事実誤認なのか、それとも悪意ある歪曲なのか?いずれにせよ、桁の間違いは致命的です。


また、晩発性障害については「一般人の年間被曝線量の限度である1ミリシーベルトでは、がん罹患率は1万人中500~1千人と言われている。それが、2ミリシーベルトになると、がん罹患率も比例して2倍になると言われている。」との記述がありますが、これがどこから出てきたものなのかよくわかりません。が、医学的には100ミリシーベルトの蓄積で、0.5%のがん発生リスクの増加(1万人中50人)とされていますから(http://www.u-tokyo-rad.jp/data/twittertoudai2.pdf )、この記述も明らかなウソです。今、東京で観測できる放射線量はマイクロシーベルトの単位ですから、100ミリシーベルトに達するまでの年月を考えれば、現状では、がんの発生率の増加はほぼ無視できるレベルのはずです。





④同じく急性障害の記述の中で「1999年の「JCO臨界事故」では、ステンレスのバケツでウラン粉末を溶かして沈殿槽に注入したさい、核分裂が連鎖的に続く臨界状態となり、作業員2人が急性障害で死亡した。」という記述をのせていますが、JCOの事故は臨界が起こり、中性子線がでました。その結果この二人は推定で最低でも6シーベルト(=6000ミリシーベルト)の放射能を浴びたとされています。桁が違いますよね?ここで、その数値なしに事実だけを引用するのは、いったいなぜなのでしょう?ただただ恐怖感をあおるためですか?


私、もうずいぶん昔ですが、就活で受けたんですよね、朝日新聞社。筆記試験で落ちましたが。信頼できる新聞社なんだろうと思ってました。残念です。


                                     早々