BBCの医療特派員ファーガス・ウォルシュ氏のブログ 3月15日

日本で多くの人が福島原発からの放射能漏れから生じる健康被害の可能性を非常に心配するのは当然だ。地震とその後の津波は明確で目に見える破壊を引き起こしているが、一方放射能は目に見えない危険だ。


防護服に身をつつんだ作業員によって汚染の検査をされている家族の画像が警戒感を加速する。では現在の危険はなんなのであろうか?私が話を聞いた科学者たちは、漏れている放射性物質の量と種類が完全にはわかっていないので、まだ明確な答えはでないという。それでも、たいていの専門家は一般の人への危険は低い、と示唆しているように思える。



まず初めに、「シーベルト」という単位ではかられている放射性物質にさらされる、ということについての背景知識を。これは人間の細胞組織に吸収される放射線の量を数値化したものである。

誰もが放射線に、いつでもさらされているということを指摘しておくのは重要だ。大気からも宇宙線からも食べ物・水などから放射線はでる。そのレベルは非常に低い。HPA(訳注:イギリス健康保護局)の説明からの引用:


胸部X線検査はおよそ20マイクロシーベルト(20万分の1シーベルト)


イギリス人が年間平均で受ける放射線量は2200マイクロシーベルト 


それではこれは今日本で起こっていることとどう比較できるだろうか?今朝早く、日本の閣僚は、ある時点で福島原発内にいた人は11,000マイクロシーベルト/hの放射線量にさらされたが、この数値はすでに落ちている、と述べた。

また、別の時点で放射線レベルは400ミリシーベルト(1ミリシーベルトは1000マイクロシーベルト)もの量に達したといわれている。これは原子力関係の作業員が1年に受けてもいいとされている量の20倍である。もっとも危険を冒しているのは明らかに発電所に残っている少数の作業員なのだ。


一般向けに、発電所の20kmに退避勧告があり、30km以内にいる人々は屋内にいるよう指示がでている。


「空中の汚染物質から放射線を吸い込んでしまう可能性を減らすという点で、これは有効だろう。」とランカシャー中央大学の環境及び職業上の毒性研究学の教授であるスティーブ・ジョーンズは言う。彼は続けて、「発電所からの爆発後に放出された汚染物質の中に何があるのかはわからない。しかし、発電所から離れるほど、危険は非常に急速に減るだろう。」

私が話を聞いたすべての専門家は一般国民への健康の危険は現在のところ低いと言った。ジョーンズ教授は、もし状況がこれ以上悪化しないのなら、今後何十年たっても、広く一般国民に、計測可能な健康への影響を計測することは不可能だろうと述べた。癌は放射線にさらされた際の重要な長期のリスクであり、政府は間違いなく福島周辺の人々への健康の影響をチェックするだろう。


では史上最悪の原発事故、25年前のチェルノブイリとどう比較できるだろうか?日本の放射能漏れは比較すればごくわずかだ。チェルノブイリでは大きな爆発の後10日にわたって火が荒れ狂い、広大な地域に大量の放射線をまき散らした。


チェルノブイリ20周年レポートで、WHOは最大4000人が放射能汚染の健康への影響で亡くなるかもしれないが、現状ではおよそ60人にとどまっている、と述べている。そのうちの50人は救急隊員、9人は子供であり、甲状腺がんで亡くなった。子供は身体が発達中であるために、放射能汚染の危険が特に大きい。


ポーツマス大学の環境物理学の准教授であり、「チェルノブイリ:大災害とその影響」の著者であるジム・スミス博士はキエフから私に話を聞かせてくれた。彼はチェルノブイリを訪れようとしてるチームの一員だ。


彼が言うには、「チェルノブイリ事故は大量の放射性物質を放出を引き起こしたチェルノブイリは黒鉛型の原子炉で、放射性のセシウムとヨウ素が大量に出た。それは、一つには発電所の設計のせいだった。そして日本の原子炉はまったく違う設計だ。


彼が言うには、数十万人の人が、チェルノブイリの浄化と汚染除去のために働いた。発電所での労働期間に多くの人は平均しておよそ100ミリシーベルトの放射線を受けた。スミス教授の見積もりでは、これは彼らが、100人のうち1人が1度癌にかかる程度にリスクを増した、ということだ。これはもちろん人が積極的に引き受けるようなリスクではない。しかし、教授によれば、これは一生タバコを吸うことによるがんの危険性よりもはるかに低いものだ、ということだ。


日本での放射線漏れによる健康への主な影響の一つはおそらく心理的な衝撃だ。ジョーンズ教授は家から避難させられ、放射能汚染におびえるストレスは深刻な影響をもたらしうると語った。そして、その恐怖は遠く発電所から155マイル離れた東京にも及んでいる。「東京にいる人たちはおそらくは完全に安全なのだけれども、彼らが神経質になるのはわかるし、それがストレスや体調を崩す原因になることもあるだろう。」と教授は言った。

http://www.bbc.co.uk/blogs/thereporters/ferguswalsh/