一番風呂争奪戦2011(記念湯杯) | ゴースケのFighting days

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カレーとボクシングとヌコをこよなく愛する関豪介の日々の叙事ブログ。
たまにボケかますから気をつけろ。

新年の恒例行事といえば、
ニューイヤー駅伝、箱根駅伝。
そして忘れてはならないのが「一番風呂争奪戦」だ。


不思議なことに、激戦の記憶というのは、時の流れにも薄められることなく海馬に居座る。

一年前は「あけぼの湯杯」にエントリーしたが、惜しくも一番風呂の栄光はジェットバスの泡と共に消えていった・・・

(→あけぼの湯杯詳細は過去の記事「銭湯の記憶」にて)

戦場へ向かう車中、その悔しさがよみがえり胸を締め付ける。
しかし、今年こそはとギンギラギンにさりげなく闘志は燃えていた。
そいつがオレのやり方だ。


号砲は箱根駅伝と同じく8時。
大塚駅に着いたら会場へと急ぐ。
実はかなりギリギリだった。

いや、着いたらギリギリアウトだった。
既に扉は空いていたのである。


「うわ!!やっべ!!」


急いでフロントでお金を払いロッカーの鍵を受け取る。
そして、浴室へ。


「あっ、お客さん!!」

どうしたのだろう。
反則をした覚えはないが・・・


「はい、これ」


タオルをくれた・・・



脱衣所に入った時点で順位はどうやら5位。
湯舟に入っている人は・・・いない。
幸いまだ勝負は続いていた。

「今年もよろしくお願いします」
「あ、はいはい、こちらこそ」

横でおじいさん同士で会話をしている。

「・・・余裕だな」

と、思い出した。
自転車ロードレースでは、レース中でも選手同士で話すことがよくあるらしい。
むしろ饒舌なくらいに他愛もない話しをするそうだ。
それは長く厳しい戦いを乗り切るための一つの術である。
(「OverDrive」より)

そして、どうやらそれはこのレースにも当てはまるらしい。


だがオレは寡黙に「脱ぎ」に全神経を傾注する。
ソッコー脱ぐ。
3枚くらいいっぺんに脱ぐ。

ここで2位に順位を上げたが、
トップは既に「洗い」に入っていた。
しかも湯舟に一番近い洗い場を陣取っている。

湯舟に一番近い場所は座ったまま湯舟に手が届くポジション。
すなわち、湯舟のお湯を洗面器で直接汲むことができるため蛇口からお湯を溜める時間が省け、圧倒的に有利なのだ。


「さすが・・・場慣れしている・・・」


戦いは厳しい状況となったが、諦めたらそこで試合終了。
オレは一縷の望みをかけトップにくらいつく。

急いで湯舟の湯をバザバザとかぶり、独走中のおじさんの二つ横に座る。

ソッコー頭を洗い、そのまま体に移って間もなく、横でお湯を被る音が。


ザバーン


それはまさしく、断末魔のワンシーンのように深くオレの心臓をつんざく、終焉を告げる鐘の音だ。


「終わった・・・」


そう思いふと横を見ると、


「おおッ!!」


ヒゲを剃りはじめるおじさんの姿。


銭湯に「ヒゲは剃らなければならない」というルールはない。
オレは体を流すとおじさんを横目にトップで湯舟にたどり着いた。


参考
【銭湯マナー】
・湯舟に入るまえに体を洗いましょう。
・湯舟に入るとき長い髪はくくりましょう。・湯舟で泳いではいけません。
・浴場内で洗濯をしたり染髪をしてはいけません。
by東京都浴場組合



清らかに揺れる水面。
底から放たれる泡が規則的なそして不規則な1/fゆらぎのリズムで踊る。

目を閉じて、ゆっくりとお湯に溶けた。
体を包み込む暖かさがオレの闘争心を鎮める。



ふと目を開けると、おじさんはまだヒゲを剃っていた。

その手つきは滑らかで、まるでピアノを奏でるように優しく軽やかだ。
そして気持ちよさそうである。


(一番になることが全てではないよ)


無言でそのことをオレに教えてくれたのかもしれない。
おじさんは一番になろうと思えばなれたはずなのだから。


オレは一番になることだけにこだわり、レースを楽しむことを忘れていた。
もらったタオルの可愛らしいウサギの絵にさえ気づかなかった。


「ありがとう・・・ございました・・・」


思わず呟いた声になるかならない程の言葉は、バブルの音にかき消されおじさんの耳には届いていないだろう。


「我以外皆我が師」

とは宮本武蔵の言葉である。

心構え一つであらゆる場所が己を磨く道場となるのだ。

2011年も貪欲にそして謙虚にあらゆるものを吸収し、チャンピオンに値する人間に近づいていけたらと思う。