ぐるパパ誕生 エピソードⅡ~その1~
交際すること4年、僕らは結婚した。今では信じられない話だが、「俺が辞めろと言ったら仕事を辞めること。」という条件を僕は彼女に突き付けた。怖いもの知らずだったのだ。彼女も彼女で、このタイミングを逸したら暫く結婚はないと踏んだのか?ナントその条件を受け入れたので、僕らはめでたく結婚へと突き進んだ。
「結婚とは偶然に起こった奇跡を永遠に持続させようとするようなこと。」と、かのアインシュタインは言ったそうだ。アインシュタインが言うのだから間違いないのだろう。確かに、育ちも考え方も性別も違うアカの他人の二人が、ひとつ屋根の下に暮らし、毎日同じもの食べるなんて、冷静に考えてうまくいく方が奇跡だと思う。
勢いとか、勘違いとか、強いプレッシャーとか、何かそういう追い風のようなものが結婚には必要だ。だって、どこからどう見たって平平凡凡な顔してるのに「かっこいい」とか「かわいい」とか思っちゃっているんだから、その時点で既に一時の気の迷いというか勘違いとしかいいようがないし、冷静に相手との結婚生活のシュミレーションなんてやり始めたら決断なんてできるはずもないのだから、勢いも絶対に必要になってくるのである。
まあ、ともかく僕らはアインシュタインの言うところの偶然の奇跡を今のところ継続している。不思議と後悔はしていない。
新婚当初僕は仕事の関係で火曜日と水曜日が休みで、妻は普通に土日が休みだった。自然の流れで休みの日の食事は僕が用意するようになった。若かりし頃の僕の頭には、「結婚したら家事はカミサンに任せるもの。」という古い固定概念があったけれども、自分は休みで一日中グウタラしているのに、仕事から帰った妻に食事の準備をさせるというのはさすがに気がひけたのである。
二人で初めて借りた家は等々力にあって、最寄りのスーパーは紀伊国屋だった。僕は何も考えずに紀伊国屋に足を運び、ひと玉300円のキャベツや、1丁500円の豆腐などをせっせと買い込んだ。僕の育った家庭はとりたてて裕福な家ではなかったけれども、母が料理好きだったこともあり、やたらとエンゲル係数が高く、紀伊国屋で買い物をすることもたまにあったので、日常品を紀伊国屋で買うことの異常性に全く気づいていなかったのである。
なにはともあれ、セレブマダムのようなクッキング生活がこうして静かに幕を開けていったのだった。
(その2に続く)