たまたま新聞のテレビ欄で、フジテレビ新シリーズの紹介に気付き、面白そうだなと感じて借りた本。結果として正解。

最近はこんな感じの、探偵役の設定に特徴のあるライトミステリ(事件の謎自体は軽くて、主人公である謎を解くコンビ、トリオのやりとりが面白いもの)が流行している気がする。このシリーズは警視庁捜査第一課の敏腕刑事須藤友三が重傷を負ってリハビリ中、警視庁内で比較的楽な部門(と思われた)動植物課に配属になって、そこの女性警官薄圭子とコンビを組んで動物絡みの謎を解く、という設定だ。

シリーズ第二話なので既に主人公たちはいいコンビで動き始めている。

 

こんなイントロで読書日記を残していたが、このシリーズは橋本環奈と渡部篤郎主演のTVドラマ「警視庁いきもの係」で知って原作を読み、ほぼ同時にドラマも観たがどちらも楽しめた。

 

(蜂に魅かれた容疑者)

あっという間に読み終わったが、まあこの手のミステリとしては成功、満足。特に須藤友三と薄圭子の掛け合い漫才のような会話が絶妙、薄が須藤の言葉を次々と誤変換して聞き直すところが愉快で楽しい。これはこのあとの作品でも続いてお約束のギャグに。

トリックと言うか仕掛けもなかなか考えてあって、犯人側の計画も巧妙、登場人物もほとんど無駄なく活用されている点も僕の好みだ。ラストの活劇的なところも含め、TVドラマになじみやすい、そんな風に思えた。このシリーズはすでに4作出ているので、しばらく楽しめそう、さっそく1作目を借りてきた。

 

(小鳥を愛した容疑者)

たまたま読んだ「警視庁総務課動植物係」シリーズ第2冊「蜂に魅せられた容疑者」が結構楽しくて面白かったので、シリーズ最初の本から読み始めた。こんな風にして読む幅が広がるのはうれしい。

第一作は短編集だった。小鳥、蛇、カメ、そしてもう一種類の動物が登場する。「蜂に魅かれた容疑者」で感じた須藤警部補の行動力から割と若い印象を持っていたのだが、ここでは50歳、事件で怪我をしてしまい、現場復帰が困難なことから総務課に異動になってここで静かに定年を待つ、という設定だったことが分かる。独身で二階建てのアパートに住む、というのはちょっと可哀そう過ぎる気もする。でも今後、薄巡査と年の差恋愛の可能性も感じられ、それはそれで楽しいかもしれないが。

二人の掛け合いの面白さは、こちらが第一作ということもあってボチボチ、でも萌芽はみてとれる。謎もある程度、説得力はあったが、結局、一話の手乗り十姉妹は犯罪の証拠を持っていたのかどうか、よくわからなかった。

第2話では蛇を飼っていた対象者が自殺をしたのか、それとも殺害されたのか、がポイント。ここでもてきぱきと残されたペットの世話をしつつ、観察力の鋭さで次々と不審な点を発見して真相に近づいていく。この作品は蛇の描写があってあまり気持ちはよくないが、謎自身はなかなか工夫されていてよかった。事件の流れだけ綴ると、蛇の飼い主は自殺を試み、望んだ方法とは違ったけれども目的を果たす。ところがここに偶然、介入することになったのが容疑者。自分に遺贈されることになっていた蛇が、このまま自殺者の発見が遅れると世話を受けずに死んでしまう。また、自分は時効を目前にした逃亡犯罪者であるため、言いだすことができない。やむなく別の場所で自殺したように偽装するが、薄圭子のペットに対する知識、人脈と推理によってあばかれ、最後は蛇を守るために現場に現れ、逮捕されてしまうというもの。こじつけではあるけれど、まあまとまった作品だった。

次はカメの話。爬虫類続きだが、蛇と亀では須藤も僕もずいぶん感覚が違ってくる。カメはまあ許せる。カメ好きの一族、代々カメを飼い、死ぬと土に埋め、甲羅を残すようにしていた、というのがこの話の設定。二人の兄弟もカメを飼っていたが、兄は3年前にワニガメを死なせてしまい、もう飼っていないと言う。弟は息子と二人暮らしだが、入院している息子を残して突然失踪した。その家にカメを世話する為に行ってみると、どうやらそのカメは最近、死んでしまい、代わりに似たカメを購入したものだったことが判る。(これ自身も薄の特別な知識、観察力があって初めて判ること)

ここから兄は3年前に誤って人をひき殺した。その死体を隠すためにワニガメが死んだ、と偽って一族のカメの埋葬場所に埋めた。ところが弟のカメが死んでしまい、それを埋めに行くという。埋葬場所を掘られて死体が出てくることを恐れ、兄がこれらの犯罪を計画した、というもの。実にいろいろな事象を盛り込んで話を複雑にしているが、最後の謎解きでまあ、一応は収まるところに収まる。こんな謎は逆から考えると案外簡単なのは経験上分かっているが、須藤と薄のやりとりも含め、なかなか楽しい。あまりに薄圭子が優秀すぎて、須藤が狂言回し的になっているのが残念。

次の動物はフクロウ、この話の冒頭で須藤は鬼頭管理官(須藤を動物植物係に異動させた上司)から捜査一課への復帰を打診される。須藤が復帰すれば薄は動植物課以外に回す、それが厭なら解雇する、という鬼頭の言葉に、復帰が嬉しいはずの須藤はなぜか悩みながら(なぜかと書いたが、理由は明白)、事件の現場に向かう。

フクロウの話もなかなか面白かった。フクロウの飼育者とその鳴き声でもめていた隣家の主人が殺される。容疑者としてフクロウの飼育者が逮捕され、残されたフクロウの世話をするために彼らが出動する、と言う状況。いつものように現場に対する薄圭子の鋭い観察力から犯人は被害者の妻とフクロウ飼育者の友人であると見抜く。推理と理屈つけはなかなかしっかりとしていたが、ただ、妻と友人が仲良くなったいきさつなどもう少し丁寧に説明した方が良かった気もした。

いずれにしろ、最後に須藤は鬼頭から捜査一課への復帰を内示されるが、それを断る。途中にちゃんと伏線もあり、まあ共感できる選択だった。続くシリーズ2作目が最初に読んだ蜂の話になるが、ここまで推理力の冴えを示し過ぎた(と作家も考えた?)薄は次作ではややコミカルに転換する。それもよし。シリーズ第三作も楽しみ。

 

こんな風に当時書いているが、そのあと、シリーズ全作読み切る。どんどん、薄の実力、人脈の凄さが出てきて印象も少し変わるが、面白かった。期待した?薄と須藤のロマンスのようなものはなく、まあ穏当な展開かな。