●6年生から急に伸びた生徒たち(1)
O君が入塾してきたのは彼が5年生の秋でした。学校ではできるほうだったらしく、勉強にも自信があったようで授業中、私の説明をさえぎる形で、自慢話ばかり。
「いとこは有名中にいってる」だの、「学校のテストはいつも100点」だの。
慣れていないからと初めは大目にみていたのですが、授業の妨げになります。
「みんなは先生の説明を聞きにわざわざ電車に乗って遠くから来てるんだよ。君の自慢話を聞くためじゃない」とついつい声を荒げると、黙ったのはいいのですが、大粒の涙を流して声をあげて泣き出してしまいました。
自信があった勉強ですが、塾での最初のテストは惨憺たるものでした。学校ではほとんど満点のテストでも、塾では20点が取れないのです。おそらく、彼が経験した最初の屈辱だったのかもしれません。
よほどショックだったのでしょう。しかし発言したがり癖はなかなか直るものではありません。
「あのね、学校だと手を挙げて先生の質問に答えることは気持ちよく、自分はよくできると、ぽわんといい気分になれるよね。でも、話すことは、発表するってことは今もっている自分の力を、より以上のものにはしないというつまり現状を維持する行為で、聞くということは今の自分に新たな知識を注ぎ込み、そして何より説明を聞くということは自分の考え方をより高めていく行為なんだよ。」
と何度諭したことでしょう。
でも5年生の間は彼の話したがりはなかなか直りませんでした。当然成績も偏差値にして30程度をさまよっていました。とても名のある中学を目指すというわけにはいきません。とにかく授業の内容で彼を圧倒していきました。
親御さんは
「きつと伸ばしてみせます」
という私の言葉を信じてじっと耐えてくださいました。
この頃になってようやく彼の子供っぽさが影をひそめ、「学ぶ」という姿勢が徐々にできてきました。言いたがりも授業内容が面白いので説明に聞き入るようになりました。
すると・・・・、あれほど低迷していた成績が、急にという感じで上昇をはじめました。まず算数の点が70を越えるようになりました。算数があがってくれば、理科、そして国語と精神的に大きくなったと感じさせました。
夏を迎える頃には、もう堂々と中堅校を狙える力をつけてきました。偏差値も50を越えてきました。
やっと私の意図する気持ちも理解できるようになりました。
秋にはクラスメイトも目を見張るほど成績を伸ばしトップ校を伺うという位置までもってきました。偏差値も60を越えてきました。実に30も上げたことiなります。
そして迎えた受験、かつては夢そのものであった成城中は簡単にクリアー、あわよくばという桐朋中はほんの少しの差で残念。
しかし、難関とされた国学院久我山の二次に合格することができました。
今は私の勧めた東京工業大に進み「ロボットを開発したい」という彼の夢の道を「医療用ロボットの研究に勤しんでいると聞きます
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