私と月につきあって/野尻抱介 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

私と月につきあって/野尻抱介

ロケットガール第3巻。

 

本巻も大変面白く、かつ読みやすいので、サクサクと読み終わり。

個人的にファンのマツリの出番が少ない事と、前2巻の読了を前提にしているためか、ベースとなる宇宙飛行の地道な訓練風景の描写や技術解説が少ないためやや駆け足感があって、主人公やその周囲に存在する無数の人物達の宇宙へ馳せる思いの丈が伝わりにくい印象だったのが難点。

ただ、その分紙幅は月旅行の大冒険に割かれており、この波瀾万丈の物語はページを繰る手を止める能わず、巻末まで一気に読ませる迫力と感動がある。

ゆかりの打たれ弱さは結構意外だったが、まあ、親分肌での奮闘はいつも通り。それよりも、フランスのロケットガール、ソランジュの高邁な理念とそれに信奉する意思には心打たれた。

こんなにも宇宙は人類を待っているのに、地上でせせこましく殺し合い足を引っ張り合うベントスの如き人の愚かさ浅ましさには、誰しも目眩を覚える事だろう。

 

ネタバレになるが、ラストシーン、大破の後に改造した月着陸機に魔法少女の箒よろしく跨がって(表紙のイラストだ)、いくら大気が無いとは言え、無防備剥き出しののタンデムライドで、月面クレーターの稜線スレスレをマッハ4で飛翔し母船に帰還するシーンは圧巻の一言。映像がありありと脳裏に浮かんで手に汗握った。

 

次巻も非常に楽しみだが、シリーズ最終巻と言う事で一抹の淋しさも。

 

野尻抱介
私と月につきあって