夢をかなえるゾウ/水野敬也 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

夢をかなえるゾウ/水野敬也

先週既に書き終えていたが、ぶっちゃんのお見送りで動転してアップ忘れてた分。

積み本消化7冊目。

数年前に爆発的に流行った本。例に漏れず職場にも何冊も転がっていたので、まあ読んでみるかと拾って積んでおいたもの。
実に面白かった。
内容は、確か映画だかドラマだかにもなったので知っている人も多いのだろうが、ストーリー仕立ての自己啓発本である。
平たく言うと、大人向けのドラえもん。
欲だけはある平凡なサラリーマンの元へ、ゾウの形をしたインドの神様ガネーシャが現れ、秘密道具よろしく「成功するための課題」を毎日与えてくれ、愉快な関西弁でノリノリの解説と、破壊的性格がもたらすスラップスティックがかき回すギャグ展開でおもしろおかしく締めくくる、というショートストーリーの繰り返し。最初は、うさんくさいガネーシャの教えに半信半疑の主人公も、課題をこなす内に変わりつつある自分に驚いていよいよ自己啓発に邁進し、またガネーシャとのデコボココンビの友情(?)にホロリとしながら、やがて訪れる別れに涙しつつ成功を誓うのだ、という感じか。

自己啓発本としての、自己啓発内容は、特に目新しいものはなく、どこに転がっている啓発本にも書いてあるような平凡な内容。実際、本書の中でも、繰り返しその旨は書いてある。ワシの教えは、当たり前の事やで、と。でも、ほとんどの人は読んでも行動しない、だからほとんどの人は成功せえへんのや、とも説く。つまり、今すぐ行動せよというのが本書のメインテーマで、そして、それも含めて、啓発本の良くあるパターンの一つに過ぎないだろう。
実際こうした本は、読んだだけで満足する人向けに書かれるものであるし、そうした啓発本を何十冊も読み込む啓発本マニアに向け、「そうそう、読んだだけで満足するやつっているよな、大事なのは行動する事なのにさ。自分は既にそのことを知っているからそいつらとは違うんだけどね!」という満足感を与える事を主眼にしているわけである。
本書のような啓発本は、読者が実際に成功する率でもってその真価を測ってはいけない。啓発本の価値はワナビーに与える読後の満足感で測るべきだろう。そうした意味では、後半、成功は難しい難しいと連ねつつ決して可能性を完全には否定しない絶妙な飴と鞭のバランスで、誰にでもできる成功というぼんやりした幻想を、誰にでもできるように見えて実際は難しいがそのことをよく分かって今すぐ行動する(予定の)自分には成し遂げられる手が届く成功、というリアリティ溢れる幻想にすり替える本作のテクニックには目を見張るものがあった。

清水義範のパスティーシュのように、こうした構造を楽しむエンタテインメントとして、また1編のドラマとして、本書は非常に楽しく読める作品として評価できるだろう。

水野敬也
夢をかなえるゾウ