宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ/佐藤俊哉
りすに似た生物りすりすがのんびりと暮らすりすりす星。元々そこそこの知的進化はしていたが、異星人との交流により飛躍的発展を遂げた彼らは、星の海へと乗り出してゆく。
極めて忘れっぽい事を除けば高度な科学技術を持ち、病気も天敵も無く、生来ののんびりとして平和を希求する性格を発揮して、野蛮で好戦的な生命体が住む星々を見つけては、次々と征服して(彼らが考える)平和を拡大していった。
そんなりすりす星人のひとりである宇宙怪人しまりす君は、大学院で惑星征服学を修めながら、彼の選んだフィールドである地球と呼ばれる星での実践に乗り出していこうとした。しかし、彼の教授が言うには、原住民は生かさず殺さず働かせて税を搾り取れ、ついては住民の健康管理は惑星征服にとって極めて重要な鍵を握る、と。
科学技術を始めあらゆる学問が進んでいるりすりす星ではあったが、元来病気らしい病気が何も無かったため、医療統計学だけは非常に遅れていた。
地球征服のためには、まず医療統計をマスターする事が必要、と意気込んだしまりす君は、京都にある大学に向かい、嫌がる医療統計の先生につきまといながら、医療統計の初歩の初歩から学び始めた…。というようなバックストーリー。
軽妙なタッチの会話文で、しまりす君と先生の掛け合いを通じて医療統計の初歩を解説する本。易しく書かれた本なので、当然面白く読みやすくわかりやすいが、なんと言っても、雰囲気とイラストが良くて楽しい。
死亡率と死亡割合、オッズ比などのターム解説から、統計の基本、疫学や医療統計の本質など、浅く広く知識が身につく良本であろう。
特にキモとなるのは、医学や薬品の研究が難しいのは倫理が縛るからだ、という点。
例えば、タバコが肺がんの原因になるかどうかは、ランダムに集めた人間を、タバコを吸わせるグループと、吸わせないグループに分け、実験してみればすぐに分かる事だ。しかし、そんな人体実験は倫理的に許されない、という認識の社会に現在の我々はいる。同様の動物実験ですら厳しい規制があるほどだ。このため、タバコが肺がんの原因である事を示すには、非常に回りくどい調査を行い複雑な統計処理を施す必要があるのだ、という事実をしっかり知るのは良い事だ。タバコを吸っていても肺がんにならない人が居るから原因では無い、とか、薬の評価の、「使った」「治った」「効いた」の”3た主義”などの誤謬にはまる人は多い事だろう。
例えば、風邪を治す薬、等というものは存在しないと言う事をどれだけの人がキチンと意識しているのか。菌類に劇的に効く抗生物質のように、風邪のウイルスをやっつける薬と言うものは無いのだ。市販の風邪薬というのは、あくまで風邪の症状を緩和する薬であり、特効薬と思われているタミフルですら、ウイルスの増殖を抑える(=インフルエンザの発症期間がすこし縮まる)薬に過ぎない。
人類にとって、風邪を治す方法は,、たった一つしか無い。栄養を取って、暖かくして、寝る。これだけである。体温を上昇させ熱でウイルスを弱らせて免疫系がそれを排除する、という事だ。民間療法を始めあらゆる風邪の対処法は、このプロセスをサポートする手段に過ぎない。
だから風邪の治療薬が存在しないのと同様、そこそこ健康な人なら、何もせず放って置いても、数日で風邪は勝手に治るのだ。それを、風邪薬を飲んだから治った、飲んだから速く治った、と勘違いしてはいけないのだ。風邪薬などは飲んでも風邪には一切効果はないし、特別な状況でも無ければ全く飲む必要は無いのだ。むしろ、解熱効果の強いものは逆に治癒を遅らせる恐れもあることを認識すべきだろう。
ちなみに我が家では風邪薬というものは飲まないし、そもそも買わない。私の風邪の治し方は、栄養と水分を十分摂って、厚着して布団を多めに被り、汗だくになりながらじっと寝ている、という方法だ。大概これで一晩で治る。ただし仕事などで動かざるを得ず、どうしても辛いときに、頭痛などの症状緩和のために鎮痛薬を飲む事はある。
小児科医をしている伯父は、ただの風邪なら薬は出さないと話していたのを思い出した。熱を出すのが子供の仕事ですと話だけして帰す、と彼は言っていた。欲のない事である。最も基本的な炒飯で中華コックの腕は分かると言われているが、同様に、最もありふれた風邪への対処で医師の資質も判じる事ができるだろう。
と言う事で、やはり統計は義務教育での必修にすべきだろうと思う。
佐藤俊哉
宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ
極めて忘れっぽい事を除けば高度な科学技術を持ち、病気も天敵も無く、生来ののんびりとして平和を希求する性格を発揮して、野蛮で好戦的な生命体が住む星々を見つけては、次々と征服して(彼らが考える)平和を拡大していった。
そんなりすりす星人のひとりである宇宙怪人しまりす君は、大学院で惑星征服学を修めながら、彼の選んだフィールドである地球と呼ばれる星での実践に乗り出していこうとした。しかし、彼の教授が言うには、原住民は生かさず殺さず働かせて税を搾り取れ、ついては住民の健康管理は惑星征服にとって極めて重要な鍵を握る、と。
科学技術を始めあらゆる学問が進んでいるりすりす星ではあったが、元来病気らしい病気が何も無かったため、医療統計学だけは非常に遅れていた。
地球征服のためには、まず医療統計をマスターする事が必要、と意気込んだしまりす君は、京都にある大学に向かい、嫌がる医療統計の先生につきまといながら、医療統計の初歩の初歩から学び始めた…。というようなバックストーリー。
軽妙なタッチの会話文で、しまりす君と先生の掛け合いを通じて医療統計の初歩を解説する本。易しく書かれた本なので、当然面白く読みやすくわかりやすいが、なんと言っても、雰囲気とイラストが良くて楽しい。
死亡率と死亡割合、オッズ比などのターム解説から、統計の基本、疫学や医療統計の本質など、浅く広く知識が身につく良本であろう。
特にキモとなるのは、医学や薬品の研究が難しいのは倫理が縛るからだ、という点。
例えば、タバコが肺がんの原因になるかどうかは、ランダムに集めた人間を、タバコを吸わせるグループと、吸わせないグループに分け、実験してみればすぐに分かる事だ。しかし、そんな人体実験は倫理的に許されない、という認識の社会に現在の我々はいる。同様の動物実験ですら厳しい規制があるほどだ。このため、タバコが肺がんの原因である事を示すには、非常に回りくどい調査を行い複雑な統計処理を施す必要があるのだ、という事実をしっかり知るのは良い事だ。タバコを吸っていても肺がんにならない人が居るから原因では無い、とか、薬の評価の、「使った」「治った」「効いた」の”3た主義”などの誤謬にはまる人は多い事だろう。
例えば、風邪を治す薬、等というものは存在しないと言う事をどれだけの人がキチンと意識しているのか。菌類に劇的に効く抗生物質のように、風邪のウイルスをやっつける薬と言うものは無いのだ。市販の風邪薬というのは、あくまで風邪の症状を緩和する薬であり、特効薬と思われているタミフルですら、ウイルスの増殖を抑える(=インフルエンザの発症期間がすこし縮まる)薬に過ぎない。
人類にとって、風邪を治す方法は,、たった一つしか無い。栄養を取って、暖かくして、寝る。これだけである。体温を上昇させ熱でウイルスを弱らせて免疫系がそれを排除する、という事だ。民間療法を始めあらゆる風邪の対処法は、このプロセスをサポートする手段に過ぎない。
だから風邪の治療薬が存在しないのと同様、そこそこ健康な人なら、何もせず放って置いても、数日で風邪は勝手に治るのだ。それを、風邪薬を飲んだから治った、飲んだから速く治った、と勘違いしてはいけないのだ。風邪薬などは飲んでも風邪には一切効果はないし、特別な状況でも無ければ全く飲む必要は無いのだ。むしろ、解熱効果の強いものは逆に治癒を遅らせる恐れもあることを認識すべきだろう。
ちなみに我が家では風邪薬というものは飲まないし、そもそも買わない。私の風邪の治し方は、栄養と水分を十分摂って、厚着して布団を多めに被り、汗だくになりながらじっと寝ている、という方法だ。大概これで一晩で治る。ただし仕事などで動かざるを得ず、どうしても辛いときに、頭痛などの症状緩和のために鎮痛薬を飲む事はある。
小児科医をしている伯父は、ただの風邪なら薬は出さないと話していたのを思い出した。熱を出すのが子供の仕事ですと話だけして帰す、と彼は言っていた。欲のない事である。最も基本的な炒飯で中華コックの腕は分かると言われているが、同様に、最もありふれた風邪への対処で医師の資質も判じる事ができるだろう。
と言う事で、やはり統計は義務教育での必修にすべきだろうと思う。