ニンテンドーDSが売れる理由 ゲームニクスでインターフェースが変わる/サイトウ・アキヒロ他
まず、タイトルに違和感。
一見、あのDSブームを俎上に営業上の戦略や商品開発秘話などを解説するビジネス本かのような印象を受けるだろう。だがさにあらず、この本は、やはりデザイナー向けの、UI設計を中心としたゲームのユーザビリティ解説の書籍なのでである。まあ、副題読めば何となくそんな印象も受けるだろうが、やはりタイトル詐欺と言われても反論しきれない部分はあるだろう。
ゲームニクスとは、著者が提唱する概念で、テレビゲームの進化と共に発展した、広い意味でのUIノウハウの事である。より売れるように、よりユーザーに受けるようにとメーカーが心血を注いで進化してきたゲームのUIを科学的に分析することにより、そこから得られた知見を、ゲームへのフィードバックはもとより、身の回りの工業製品や、サービス、システムなど、身の回りにある様々な「人間が関わるモノ」へと応用することを目指す学問分野との事である。
ゲーミフィケーションとも共通の分野が多いよく似た概念であるが、こちらはより工学よりで、UIにインターフェイスをおいている印象か。なお、タイトルを見ても分かるように2007年とやや振るい書籍であるので、現在はゲーミフィケーションへと統合されているのかもしれない。
全頁カラーで、文字も大きく、実際のゲームのSSをふんだんに取り入れたページ構成は実に読みやすい。内容も非常にスタンダードな印象で、手元に置いて参照すると重宝するだろう。
ただし、どこか通り一遍な印象を受けてしまうのが残念だ。
それは、この書籍では、ゲーム仕様に関する記述が根本的に間違っている箇所が散見され、どうしても全体的な内容精度への疑念につながってしまうからかもしれない。
木を見て森を見ず、とはなりたくないので、あまり重箱の隅を突くような指摘は避けたいのだが、代表的な箇所を挙げてみよう。
曰く、スーパーマリオブラザーズというゲームでは、Bボタンで行うダッシュは、ゲームの根幹に関わるような重要なアクションでは無く、例えば、ファイアーマリオに変身するとダッシュできなくなる程である、とのことだ。
うわー、と嫌な汗が出てくるような記述である。こんな程度の認識の人がゲームの分析とか…。
ちなみに、著者はゲーム制作者出身であり、本書にも多数のゲームが登場し、ゲーム自体への関心や理解は基本的には深いと思われる。
件のスーパーマリオにしても、ゲームシステムの分析をかなり深く行っており、有名なW1-1のチュートリアル構成をはじめ、画面レイアウト、キャラクターの状態遷移、制限がある中でのビジュアルデザインなど、様々な方面からの解説が行われる。
スーパーマリオというのがいかに優れたデザインなのか、読者は深く納得するだろう。
しかし、「マリオは優れたデザインだ → なので世界的大ヒットになった」とは、言えないと思うのだ。
まず、スーパーマリオブラザーズというゲームの本質は何か、と言う点を掴んでいない。
マリオは優れたデザインだから売れたのでは無い。面白いから売れたのだ。
もちろん、「面白さ」を十二分に引き出す点まで含めた「ゲームデザイン」というものはあるだろう。本書でもそうした点は強調されている。
しかし、いくらデザインが優れていても、元々面白くないゲームはどうしようも無いだろう。
これは、異論も多いとは思うが、敢えて断言すると、マリオはジャンプが面白いのだ。一見単純に思える、ジャンプ動作の、そのアクションからプレイヤーに返ってくる微妙な感覚の印象。それがキモである。マリオのワールドは、すべてこの感覚を活かすために設計されている。
グラフィックス、音楽、メニュー構成、システム構成、などなど、そこに込められた制作者の工夫や効果を分析し、まとめ上げる事は、決して意味の無い行為ではないし、本書も労作だと思う。ただ、ゲームがゲームたる本質は、そこには無い、という事だ。
笑いを分析すれば笑いは死ぬ、という言葉があるが、同じように、ゲームを分析しても、ゲームの本質は立ち現れてこないだろう。なぜならそれはプレイする人間の感覚の内にしか現れないからである。
そしてその現れた微妙な感覚を引き立てる技法は数多あるし、本書が解説しているのもそうした点である。しかし、強調するが、引き立てる技法ばかりをいくら集めても、それだけではおもしろゲームができあがるわけでは無いのだ。
ゲームに魂が入るかどうか、という分岐は、まさにこの一点による。
上記のような著者の記述を目にすると、こうした点が分かっていないとしか思えないのだ。
DSが売れた理由、などと大層なタイトルをつけるにあたり、ゲームニクスとして著者が提唱するモノが、あくまで表層の補助技術の集合に過ぎないのだ、という認識があったとは思えない点が心配である。ゲームニクスは必須の技術だと思うが、ゲームニクスがあったから売れたわけではない。本書を読むにあたっては、ゲームニクスはゲームの面白さの本質では無いという点をきちんと認識していないと、足下をすくわれそうである。
サイトウ・アキヒロ他
ニンテンドーDSが売れる理由 ゲームニクスでインターフェースが変わる
一見、あのDSブームを俎上に営業上の戦略や商品開発秘話などを解説するビジネス本かのような印象を受けるだろう。だがさにあらず、この本は、やはりデザイナー向けの、UI設計を中心としたゲームのユーザビリティ解説の書籍なのでである。まあ、副題読めば何となくそんな印象も受けるだろうが、やはりタイトル詐欺と言われても反論しきれない部分はあるだろう。
ゲームニクスとは、著者が提唱する概念で、テレビゲームの進化と共に発展した、広い意味でのUIノウハウの事である。より売れるように、よりユーザーに受けるようにとメーカーが心血を注いで進化してきたゲームのUIを科学的に分析することにより、そこから得られた知見を、ゲームへのフィードバックはもとより、身の回りの工業製品や、サービス、システムなど、身の回りにある様々な「人間が関わるモノ」へと応用することを目指す学問分野との事である。
ゲーミフィケーションとも共通の分野が多いよく似た概念であるが、こちらはより工学よりで、UIにインターフェイスをおいている印象か。なお、タイトルを見ても分かるように2007年とやや振るい書籍であるので、現在はゲーミフィケーションへと統合されているのかもしれない。
全頁カラーで、文字も大きく、実際のゲームのSSをふんだんに取り入れたページ構成は実に読みやすい。内容も非常にスタンダードな印象で、手元に置いて参照すると重宝するだろう。
ただし、どこか通り一遍な印象を受けてしまうのが残念だ。
それは、この書籍では、ゲーム仕様に関する記述が根本的に間違っている箇所が散見され、どうしても全体的な内容精度への疑念につながってしまうからかもしれない。
木を見て森を見ず、とはなりたくないので、あまり重箱の隅を突くような指摘は避けたいのだが、代表的な箇所を挙げてみよう。
曰く、スーパーマリオブラザーズというゲームでは、Bボタンで行うダッシュは、ゲームの根幹に関わるような重要なアクションでは無く、例えば、ファイアーマリオに変身するとダッシュできなくなる程である、とのことだ。
うわー、と嫌な汗が出てくるような記述である。こんな程度の認識の人がゲームの分析とか…。
ちなみに、著者はゲーム制作者出身であり、本書にも多数のゲームが登場し、ゲーム自体への関心や理解は基本的には深いと思われる。
件のスーパーマリオにしても、ゲームシステムの分析をかなり深く行っており、有名なW1-1のチュートリアル構成をはじめ、画面レイアウト、キャラクターの状態遷移、制限がある中でのビジュアルデザインなど、様々な方面からの解説が行われる。
スーパーマリオというのがいかに優れたデザインなのか、読者は深く納得するだろう。
しかし、「マリオは優れたデザインだ → なので世界的大ヒットになった」とは、言えないと思うのだ。
まず、スーパーマリオブラザーズというゲームの本質は何か、と言う点を掴んでいない。
マリオは優れたデザインだから売れたのでは無い。面白いから売れたのだ。
もちろん、「面白さ」を十二分に引き出す点まで含めた「ゲームデザイン」というものはあるだろう。本書でもそうした点は強調されている。
しかし、いくらデザインが優れていても、元々面白くないゲームはどうしようも無いだろう。
これは、異論も多いとは思うが、敢えて断言すると、マリオはジャンプが面白いのだ。一見単純に思える、ジャンプ動作の、そのアクションからプレイヤーに返ってくる微妙な感覚の印象。それがキモである。マリオのワールドは、すべてこの感覚を活かすために設計されている。
グラフィックス、音楽、メニュー構成、システム構成、などなど、そこに込められた制作者の工夫や効果を分析し、まとめ上げる事は、決して意味の無い行為ではないし、本書も労作だと思う。ただ、ゲームがゲームたる本質は、そこには無い、という事だ。
笑いを分析すれば笑いは死ぬ、という言葉があるが、同じように、ゲームを分析しても、ゲームの本質は立ち現れてこないだろう。なぜならそれはプレイする人間の感覚の内にしか現れないからである。
そしてその現れた微妙な感覚を引き立てる技法は数多あるし、本書が解説しているのもそうした点である。しかし、強調するが、引き立てる技法ばかりをいくら集めても、それだけではおもしろゲームができあがるわけでは無いのだ。
ゲームに魂が入るかどうか、という分岐は、まさにこの一点による。
上記のような著者の記述を目にすると、こうした点が分かっていないとしか思えないのだ。
DSが売れた理由、などと大層なタイトルをつけるにあたり、ゲームニクスとして著者が提唱するモノが、あくまで表層の補助技術の集合に過ぎないのだ、という認識があったとは思えない点が心配である。ゲームニクスは必須の技術だと思うが、ゲームニクスがあったから売れたわけではない。本書を読むにあたっては、ゲームニクスはゲームの面白さの本質では無いという点をきちんと認識していないと、足下をすくわれそうである。