テングザル 河と生きるサル/松田一希 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

テングザル 河と生きるサル/松田一希

書評で見かけて面白そうだったので読んでみた。
大変面白い本だった。

若き博士課程研究者がボルネオの密林でテングザルの生態を追うフィールドワークの記録である。
つまびらかにされて行く主テーマであるテングザルの生態そのものも大変興味深いのはもちろんだが、特筆すべきなのは、著者が「フィールドワーク」とがっぷり四つに組み合って悪戦苦闘する様を通し、その素晴らしさを余すところ無く紹介している点である。科学研究の醍醐味である、発見の興奮、推論の陶酔、挫折と失意、トラブルによる苦悩などが溢れ、新人研究者の弾けるような心理の瑞々しさが伝わってくる。そして、突然飛び込んだ異国の地で言語の習得から始め、現地社会と交渉し、生活の活動基盤を築き、生活様式の違いに戸惑いながらも楽しみ、テングザルと川辺の密林にただただ浸る、という生活の描写も多く、観光ガイド冒険ガイド的な楽しさも詰まっている。
巻末の、絶滅危惧種としてのテングザルとその環境の保全、そして、絶滅危惧種としてのフィールドワーカー及びポスドクの保全と、研究を支えるこの二面の危機についての啓蒙は大変興味深い点だ。
あとがきにある、ボルネオ入りした時には恋人だった著者の妻への謝辞にはじーんとくる。


松田一希
テングザル 河と生きるサル