わたしの小さな古本屋 倉敷「蟲文庫」に流れるやさしい時間/田中美穂
書評で見かけて読んでみた。
著者は21歳の時に勤めを辞め、その勢いのまま当てもないのに古本屋を始めた。辞めたその日に不動産屋を回ったと言うから、性格が偲ばれて面白い。
そんな著者が営む、倉敷の観光地区のはずれにある、のんびりとした印象の古本屋での出来事と、趣味の苔観察などにまつわるエッセイなどをまとめた本である。
雰囲気は悪くないと思う。私も自営業で、ある種、同じような仕事をしていることもあり、なかなか興味深いものがあった。
自分の好きなモノに囲まれて、好きな事を仕事にして、ステキな仲間に囲まれて、美しい街で、のんびりと暮らして行けるのは良いな~、と雑貨好きな若者などがため息をつきそうな本書である。
が、事はそう単純ではないと思う。そんなに大々的には書かれていないが、やはり、相応の苦労はされている事だろう。
書かれていないのは、わざと省略したという点もあるだろうが、そもそも本人がそれをそれほど苦労と思っていない、という事もあると思う。
運に恵まれた人でもなければ、誰でも、努力を重ねなければ生きる事すら叶わないのが生ある者の宿命だ。努力について、人はいくつかのタイプに分けられると思う。
まず、辛い努力を、辛い努力だと思いながらやり遂げる人。
次に、辛い努力を、続けられない人。
そして、辛い努力を、辛い努力だと気づかずにやってしまう人。もしくは辛い努力をした事を忘れてしまう人。
本書では、例えば、この商売はほとんど儲からないと書かれているが、これは謙遜ではないだろう。
何人も使用人を抱える様な大店はしらないが、私個人の印象から言うと、個人でやってる自営業が「儲からない」と言う時は、本当に儲かっていない。遊びたいけどお小遣いがない、とか言うレベルではない。家賃や仕入れや光熱費などどうしても必要な支払いを終え、のばせる督促は目一杯のばし、口座は空っぽ、財布を叩いて、何とか今月も店が維持できた~、と言うだけで、ふーやれやれ、ほっとするぐらいが「儲からない」レベルだ。え?来月の生活費?まあ、へそくりが何とか1万円残ったから、これで何とかするさ、という所である。
これはまだ、「儲からない」というまだましなレベルである。赤字になると自営業は本当にキツイ。マイナス金額の給料をもらうサラリーマンを想像して欲しい。著者も書いているが、店を閉めたあとに、赤字補填のバイトに駆けずり回る自営業者は数知れず。私は貯金を削ってなんとかバイトを回避できたが、多分、駆け出しの頃、運送バイトに行った事のない歯医者や飲食店なんて、よっぽど恵まれている一握りだけだろう。
著者も、3ヶ月間休み無しで店に座り続ける事も普通だったと書いているが、自営業ではオンオフを組み込むのも難しい。つまり、裏側がないのだ。「のんびりとしたお店」は確かに素晴らしいかも知れないが、儲かっていなければそれプラス自分の生活、という訳にはいかない。そのお店だけなのだ。そこがあなたの全てになるのである。
それに慣れられる人、耐えられる人、そして、それを努力とも苦労とも感じない人だけが続けられる。
20年も古本屋を続けてきた著者には、間違いなく才能があったと言う事だろう。古本を扱う才能ではなく、こうした努力についての才能である。

田中美穂
わたしの小さな古本屋 倉敷「蟲文庫」に流れるやさしい時間
著者は21歳の時に勤めを辞め、その勢いのまま当てもないのに古本屋を始めた。辞めたその日に不動産屋を回ったと言うから、性格が偲ばれて面白い。
そんな著者が営む、倉敷の観光地区のはずれにある、のんびりとした印象の古本屋での出来事と、趣味の苔観察などにまつわるエッセイなどをまとめた本である。
雰囲気は悪くないと思う。私も自営業で、ある種、同じような仕事をしていることもあり、なかなか興味深いものがあった。
自分の好きなモノに囲まれて、好きな事を仕事にして、ステキな仲間に囲まれて、美しい街で、のんびりと暮らして行けるのは良いな~、と雑貨好きな若者などがため息をつきそうな本書である。
が、事はそう単純ではないと思う。そんなに大々的には書かれていないが、やはり、相応の苦労はされている事だろう。
書かれていないのは、わざと省略したという点もあるだろうが、そもそも本人がそれをそれほど苦労と思っていない、という事もあると思う。
運に恵まれた人でもなければ、誰でも、努力を重ねなければ生きる事すら叶わないのが生ある者の宿命だ。努力について、人はいくつかのタイプに分けられると思う。
まず、辛い努力を、辛い努力だと思いながらやり遂げる人。
次に、辛い努力を、続けられない人。
そして、辛い努力を、辛い努力だと気づかずにやってしまう人。もしくは辛い努力をした事を忘れてしまう人。
本書では、例えば、この商売はほとんど儲からないと書かれているが、これは謙遜ではないだろう。
何人も使用人を抱える様な大店はしらないが、私個人の印象から言うと、個人でやってる自営業が「儲からない」と言う時は、本当に儲かっていない。遊びたいけどお小遣いがない、とか言うレベルではない。家賃や仕入れや光熱費などどうしても必要な支払いを終え、のばせる督促は目一杯のばし、口座は空っぽ、財布を叩いて、何とか今月も店が維持できた~、と言うだけで、ふーやれやれ、ほっとするぐらいが「儲からない」レベルだ。え?来月の生活費?まあ、へそくりが何とか1万円残ったから、これで何とかするさ、という所である。
これはまだ、「儲からない」というまだましなレベルである。赤字になると自営業は本当にキツイ。マイナス金額の給料をもらうサラリーマンを想像して欲しい。著者も書いているが、店を閉めたあとに、赤字補填のバイトに駆けずり回る自営業者は数知れず。私は貯金を削ってなんとかバイトを回避できたが、多分、駆け出しの頃、運送バイトに行った事のない歯医者や飲食店なんて、よっぽど恵まれている一握りだけだろう。
著者も、3ヶ月間休み無しで店に座り続ける事も普通だったと書いているが、自営業ではオンオフを組み込むのも難しい。つまり、裏側がないのだ。「のんびりとしたお店」は確かに素晴らしいかも知れないが、儲かっていなければそれプラス自分の生活、という訳にはいかない。そのお店だけなのだ。そこがあなたの全てになるのである。
それに慣れられる人、耐えられる人、そして、それを努力とも苦労とも感じない人だけが続けられる。
20年も古本屋を続けてきた著者には、間違いなく才能があったと言う事だろう。古本を扱う才能ではなく、こうした努力についての才能である。