震災恐慌! 経済無策で恐慌がくる!/田中秀臣/上念司
東日本大震災の3ヶ月後に発行の本。対談をまとめたもの。
この本の要点をまとめると、
・復興には、20兆円規模のまとまった金額を、ごく初期に、一気に投下しないと効果がない。
・そのためには、国債を日銀に買い取らせて捻出しろ。他の国庫支出の振り分けでは足りないし、増税では間に合わない。
・震災+デフレ+増税で、恐怖のスパイラルが完成してしまう。
・過去にも震災後には恐慌が来た。それを防ぐには金融緩和しかない。
・金融緩和しても滅多な事ではハイパーインフレは来ない。むしろ数%のインフレは活況な経済には必須。
・デフレは絶対悪。年間3万人の自殺者はデフレが原因。
・上記を分かっていながら、先例事なかれ主義で何も手を打たず、むしろデフレ主導の日銀は絶対悪。
・そうした日銀の手綱を取れない政府は無策。
・こうした事を理解できない報じられないメディアは無能。
・何も知らされないまま20年もあえぎ続ける国民は不幸。
と言うところか。明快な論点でバッタバタと仮想敵を切り倒していく対談の様子は耳に心地よく響くであろう。
しかし、論拠はあまり確固としていない。
確かに、デフレ下で発生した関東大震災に際し高橋是清は国債を日銀に買い取らせ不況を脱した。阪神大震災後の消費税増税では不況が来た。自殺者の急増とデフレ水準は相関がある。
しかし、経済のような複雑な系では、いくら相関データを集めてもその実体を知る事は難しい。ましてやそのコントロールについては、善悪で簡単に二分できるものではない。
ドンと国債を発行して日銀に引き受けさせ、インフレ目標値を目指す、というこの本が提唱する方針は、まさにこれからアベノミクスが目指すところだ。そして震災からのこの2年間は恐慌とまでは言えないかも知れないが、経済的な成績は惨憺たるものだったろう。
ならば、アベノミクスとは、この本で提唱されるような我々が目指すべき正しい方策なのか。既に期待感から先走って現れているその効果を踏まえてさえ、やはりそうそう簡単には諸手をあげて歓迎という訳にはいかないだろう。
まず第一に、この本で論じているのは、経済のための経済施策であって、経済成長は絶対の善、人々には取り敢えず「お金」が無いと不幸なので、とにかく金を回せ、という短絡的で表層的な議論である。人々の幸福を、成長率と消費で計るのは20世紀的な発想であろう。デフレとは平たく言えばモノあまりであると、この本では論じている。必要以上に余っているから安くなるのだ。ならば、お金を刷ってどんどん人々に渡せば、余分なお金で余っているモノを買い、需要と供給の均衡がとれ、つまりデフレが解消すると説く。平たく言えば、何十兆円を国民で無駄遣いして大消費祭りを打ち上げろと言う事である。そんな事が理性ある人間の幸福であろうか?多少なりともまともな意識があれば、余る程作る方がおかしいのでは?と思わないだろうか。一方で社会生活に全く不便を感じない人はいないだろう。不便があると言う事は、「足りてない」ものがあると言う事である。誰も要らない商品を山積みする企業を導いて、先見の明を持って足りてない分野にリソースを誘導するのが政治の仕事ではないのか。
また、どんどん発行しろと言う国債は、言うまでもなく借金である。どうやって返すのかの議論はない。景気がよくなれば税収が増える、経済的な体力が付いてからじっくり財政改革すべき、とお茶を濁すに留まる。我々が無駄遣いの享楽に耽る費用は次世代に払ってもらおうというのが国債という借金である。
さらに、国債を発行し、企業が潤い、ターゲット通りのインフレを実現したとしても、なお、庶民の所得は上がらない、という事が考えられる。昭和時代とは雇用構造も人的流動性も違う。非正規雇用が過半数に迫る勢いの労働市場で、企業に利益が出たからといっておいそれと賃金が上がるものだろうか。物価は3割増、上級サラリーマンの給料は5割増し、そしてパートバイトはせいぜい時給100円アップ、という様な事にならない事を祈るばかりだ。
ここまでは国内の話だが、国際的な問題もある。世界的な不況の中、各国が足並みを揃えて財政再建に取り組む中、日本だけが抜け駆けのような金融緩和を行う事は、世界からどう見られるだろうか。円安になれば輸出が伸びると言うが、それはつまりその分、他国の企業の売上が減る訳である。日本の景気さえ良ければいい、という方針で、安く無ければ売れない程度の需要のない商品を無理矢理世界中にまき散らすことで国際社会から顰蹙を買う恐れがある。一方で円安になれば、大部分を輸入に頼る食品とエネルギーは高騰する。その打撃を一番に受けるのはやはり庶民である。
アベノミクスにより一時的な景気浮揚効果があるのは間違いないだろう。しかし、それだけでは何ら本質的な解決にはならないのだ、という点が重要である。経済とははしょせん道具に過ぎない。経済の問題は、経済だけでは解決できないと言う真理を忘れてはいけない。

田中秀臣/上念司
震災恐慌! 経済無策で恐慌がくる!
この本の要点をまとめると、
・復興には、20兆円規模のまとまった金額を、ごく初期に、一気に投下しないと効果がない。
・そのためには、国債を日銀に買い取らせて捻出しろ。他の国庫支出の振り分けでは足りないし、増税では間に合わない。
・震災+デフレ+増税で、恐怖のスパイラルが完成してしまう。
・過去にも震災後には恐慌が来た。それを防ぐには金融緩和しかない。
・金融緩和しても滅多な事ではハイパーインフレは来ない。むしろ数%のインフレは活況な経済には必須。
・デフレは絶対悪。年間3万人の自殺者はデフレが原因。
・上記を分かっていながら、先例事なかれ主義で何も手を打たず、むしろデフレ主導の日銀は絶対悪。
・そうした日銀の手綱を取れない政府は無策。
・こうした事を理解できない報じられないメディアは無能。
・何も知らされないまま20年もあえぎ続ける国民は不幸。
と言うところか。明快な論点でバッタバタと仮想敵を切り倒していく対談の様子は耳に心地よく響くであろう。
しかし、論拠はあまり確固としていない。
確かに、デフレ下で発生した関東大震災に際し高橋是清は国債を日銀に買い取らせ不況を脱した。阪神大震災後の消費税増税では不況が来た。自殺者の急増とデフレ水準は相関がある。
しかし、経済のような複雑な系では、いくら相関データを集めてもその実体を知る事は難しい。ましてやそのコントロールについては、善悪で簡単に二分できるものではない。
ドンと国債を発行して日銀に引き受けさせ、インフレ目標値を目指す、というこの本が提唱する方針は、まさにこれからアベノミクスが目指すところだ。そして震災からのこの2年間は恐慌とまでは言えないかも知れないが、経済的な成績は惨憺たるものだったろう。
ならば、アベノミクスとは、この本で提唱されるような我々が目指すべき正しい方策なのか。既に期待感から先走って現れているその効果を踏まえてさえ、やはりそうそう簡単には諸手をあげて歓迎という訳にはいかないだろう。
まず第一に、この本で論じているのは、経済のための経済施策であって、経済成長は絶対の善、人々には取り敢えず「お金」が無いと不幸なので、とにかく金を回せ、という短絡的で表層的な議論である。人々の幸福を、成長率と消費で計るのは20世紀的な発想であろう。デフレとは平たく言えばモノあまりであると、この本では論じている。必要以上に余っているから安くなるのだ。ならば、お金を刷ってどんどん人々に渡せば、余分なお金で余っているモノを買い、需要と供給の均衡がとれ、つまりデフレが解消すると説く。平たく言えば、何十兆円を国民で無駄遣いして大消費祭りを打ち上げろと言う事である。そんな事が理性ある人間の幸福であろうか?多少なりともまともな意識があれば、余る程作る方がおかしいのでは?と思わないだろうか。一方で社会生活に全く不便を感じない人はいないだろう。不便があると言う事は、「足りてない」ものがあると言う事である。誰も要らない商品を山積みする企業を導いて、先見の明を持って足りてない分野にリソースを誘導するのが政治の仕事ではないのか。
また、どんどん発行しろと言う国債は、言うまでもなく借金である。どうやって返すのかの議論はない。景気がよくなれば税収が増える、経済的な体力が付いてからじっくり財政改革すべき、とお茶を濁すに留まる。我々が無駄遣いの享楽に耽る費用は次世代に払ってもらおうというのが国債という借金である。
さらに、国債を発行し、企業が潤い、ターゲット通りのインフレを実現したとしても、なお、庶民の所得は上がらない、という事が考えられる。昭和時代とは雇用構造も人的流動性も違う。非正規雇用が過半数に迫る勢いの労働市場で、企業に利益が出たからといっておいそれと賃金が上がるものだろうか。物価は3割増、上級サラリーマンの給料は5割増し、そしてパートバイトはせいぜい時給100円アップ、という様な事にならない事を祈るばかりだ。
ここまでは国内の話だが、国際的な問題もある。世界的な不況の中、各国が足並みを揃えて財政再建に取り組む中、日本だけが抜け駆けのような金融緩和を行う事は、世界からどう見られるだろうか。円安になれば輸出が伸びると言うが、それはつまりその分、他国の企業の売上が減る訳である。日本の景気さえ良ければいい、という方針で、安く無ければ売れない程度の需要のない商品を無理矢理世界中にまき散らすことで国際社会から顰蹙を買う恐れがある。一方で円安になれば、大部分を輸入に頼る食品とエネルギーは高騰する。その打撃を一番に受けるのはやはり庶民である。
アベノミクスにより一時的な景気浮揚効果があるのは間違いないだろう。しかし、それだけでは何ら本質的な解決にはならないのだ、という点が重要である。経済とははしょせん道具に過ぎない。経済の問題は、経済だけでは解決できないと言う真理を忘れてはいけない。