さわり/佐宮圭 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

さわり/佐宮圭

浅学な私は平家物語や耳なし芳一でしか知らなかった楽器、琵琶。
天才琵琶師と言われた、鶴田錦史(きんし)の評伝である。元々この著者による賞を受けた錦史伝があり、それをまとめ直したような感じらしい。

全く知らなかった邦楽器琵琶の近代における発展と衰退がよく分かった。

NYフィルの創立125周年公演では、武満徹のノヴェンバー・ステップスを小澤征爾の指揮で初演したのだが、その時に、邦楽の琵琶と尺八を取り入れたこの現代曲で、長州の度肝を抜く琵琶を演奏したのが、鶴田錦史である。武満マニアの友人がいたため、ノヴェンバーは学生時代に何度か聴いた機会があったと思うのだが、実はあまり覚えていなかった。この本を読んで強く興味を引き立てられたので早速聴いてみようと思った。

鶴田錦史は、このように日本ではあまり知られていないが、世界的には著名な音楽家なのである。宮本茂と同じく、フランスの文化勲章を受けている。その知られざる数奇な運命を辿っている。幼少から群を抜いて頭角を現し、10代で師範となり一家を支えるプロとして活動した後、すっぱりと琵琶を止めて事業家に転身し、高額納税者の常連となる成功者となり、その後、琵琶の世界に戻り、世界的に大成するという珍しい経歴なのだ。夫に裏切られ、二人の子供を手放し、女である事を捨てて、どう見てもヤクザの親分にしか見えないと言う男装で通したという。

大変面白く興味深く読めたが、なぜ琵琶から離れたのか、なぜ琵琶に戻ったのか、彼女にとって琵琶とは何なのかを、もう少し掘り下げて知りたかったと思う。

奏法や楽器の改造から始まり公演スタイル、異文化との共演まで、なんでもやってやろうという鶴田錦史の生涯を知って、クラシックや邦楽に対する、保守という先入観がかなり崩れたのは良かった。

佐宮圭
さわり