「IT断食」のすすめ/遠藤功/山本孝昭 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

「IT断食」のすすめ/遠藤功/山本孝昭

1年の計は元旦にありと言うが、個人的には、あまりそういう節目や時節には拘らない方だ。正月は毎年妻の実家に年始に行くが、それ以外は普通に連休として過ごす。いわゆる大掃除もしないし(やるなら夏だろう。わざわざ寒風辛い季節に掃除する意味がない)、おせちも作らないし(冷蔵庫があるのに昔の慣習的な保存食を作る意味がない)、紅白など特番テレビも観ない(文字通り意味がない)。
帳簿ソフトのデータを新年用にコピーするのと、カレンダーを掛け替えるぐらいが、正月らしい作業で、あとは普段通りの休みとして普通に過ごす。

そんなわたしでも、いよいよ今年は40代、不惑を迎えるという年初には、多少の感慨があるようだ。

今年は世相も大きく変わるだろう。そんな中、家族で生き抜いてゆく基盤を、もう一歩固めたいと思う。その柱の一つはやはり経済であるが、大きく稼いで贅沢をしようという気はあまり無い。自営業であるので身を粉にして倍働けば稼ぎは倍になるし、3倍働けば3倍だ。しかし、収入より、時間が惜しい。
収入は増えなくて良い。むしろ、支出を減らしたい。支出の内、最も大きい項目はやはり家賃だ。そこで今年は、家賃交渉をして値下げを頼むか、むしろ、ずっと借りてきたこの古家をいっそ買い取ろうかと考えている。いずれにしても万が一大きくインフレに転じてからでは後の祭りなので、動くなら早い内が良いだろう。

もうひとつ、売上をあまり減らさずに、作業時間を減らしたいと思う。これは昨年10月から取り組んで、ある一定の成果を見た。しかし、もとから無駄な作業、時流の変化で無意味になった作業、自己満足の過剰品質な作業などは、まだまだあると思う。そうした点をコツコツ潰して、毎日30分ひねり出したら、これは結構凄い。漫画なら毎日1冊ずつ読める訳である。山と積まれた漫画もどんどん消化されるだろう。

そうした意味でも、この本は興味深いものだった。

内容を一言で言うと、90年代のIT革命以降、ITが日本の企業に生み出したものは、一部の劇的な超効率化と、日常に蔓延した非効率である、というものだ。私も勤め人時代を思い出して首肯するシーンに事欠かなかった。
本書のポイントは2つ。まず諸悪の根元はメール。メールの持つ特性である、あまりにも簡単に送れてしまう点、その長所でもある非同期性、同報メールなどによる非指向性などが、組織のコミュニケーションツールとして決定的なデメリットを発揮する。
例えば、担当と合って話せば3分で済んで、すぐにその場で次の対応を決める、というシーン。これをITで非効率になった職場ではどう対応するのか。
まず状況を整理してメールを書くのに小一時間もかかる。ようやく送られたメールはCCばかりで、受け取った者は誰も自分に振られた話とは思わず、やっかい事を進んで担当しようと言う者は少ない。どうにか担当が決まったとしても、彼が席に戻るまでメールは見られず、ようやく見たメールの些細な不明点を質問したメールは、今度はとっくに退社した発信者が見ていない。
各プロセスに自信がないので、顧客とのやり取りをすべてCCで上司にも転送。こんなゴミメールであふれかえった上司は、メールの整理だけで1日が終わり、危機を知らせるメールは埋もれ、対応は遅れ、そもそもメールの文面では危機感や緊急性が全く伝わらない。

もう一つのポイントは、資料作成。ITの発達で、誰でも見栄え良い資料を作れるようになった為、莫大な労力を掛けて誰も読まない資料を延々と作り続けているという。
口頭で説明すれば1分で済むところを、残業して十数ページの資料を作成する。責任をかわす証拠とするために、いちいち資料化してメールするよう要求する上司もいるという。
資料作成そのものも問題だ。どんな問題だろうと、webで検索して、コピペ。同業他社の事例、世相など、webで検索すれば出てくる程度の情報を、コピペして綺麗にまとめるだけで、立派な資料をつくったと思い込む。なぜなら膨大な時間を掛けて見た目が素晴らしい資料になっているからだ。
しかし、そこには自分の目と足で掴んだ情報は無いし、本当に必要な、その分析、そして対応が、すっぽりと抜け落ちているのだ。何日も掛け、データやグラフを満載した数十ページの資料。その内容は一言で言うと、「このところ我が社の売上は減少傾向である」。そんなことは最初から誰もが分かっている事だ。
こんな資料を基に会議をしても、長大な資料を朗読するだけで時間を浪費し、疲れ切ったメンバーの結論は、「もう少し調べてみよう」「しばらく様子を見よう」といった事なかれ主義で終わるという。

本当にこうしたIT弊害が蔓延しているのなら、日本企業の低迷もさもありなん。

そして、こうしたITの弊害、IT中毒は今後、むしろ個人の生活習慣上の問題として、だんだんとクロースアップされてゆくだろうと思う。

タバコやアルコールと一緒で、パソコンやスマホを使ってweb・メールをチェック、という行為は悪習化しやすい。何時以降は見ない、とか、電源を切る、といったかなり強制力のある手段を決意を持って実行しないと、普通の人の弱き自制心ではなかなか自律しきれないだろう。ましてや子供には難しいだろう。難しい時代である。AIによる個人秘書が一般化するまで、人類は人生をドブに捨て続けなければならない宿命なのだろうか。

遠藤功/山本孝昭
「IT断食」のすすめ