陽だまりの彼女/越谷オサム | 読んだり観たり聴いたりしたもの

陽だまりの彼女/越谷オサム

新聞書評がよかったので読んでみた。
底の浅いラノベという感じで、今ひとつだった。

以下、激しくネタバレのため注意。


主人公の浩介は広告会社に勤める社会人2年生。ある日、クライアント先で偶然出会ったのは、中学の時クラスメートで親しかった真緒。浩介が引っ越ししてから10年ぶりの再会だった。気分屋で「学年有数のバカ」ということで浮いた存在だった真緒。真緒に対する嫌がらせに憤ったことから合わせてハブられた浩介。子猫のようにじゃれついてくる真緒を、浩介はクールなポーズを取りながらなんやかんやと面倒を見た。クラスメイトへの愚痴を聞いたり、分数の計算を教えたり。
その真緒が今、目を疑うほど、別人のように成長して、浩介の目の前に現れたのだ。二人は旧交を温め、デートを重ね、恋人となり、交際を渋る両親を振りきって駆け落ちして入籍し、再会から数ヶ月後には夫婦となって共に暮らしはじめる。10年の空白を埋めるように甘い時を過ごす二人。この中盤の描写が長い。
真緒には不思議な秘密があった。里子だった彼女は、13歳の時、記憶を失って素っ裸で歩いているところを保護されたという。里子から後に養子縁組した彼女の母は、突然現れた子だから、また突然になくなってしまうような気がすると、彼女の秘密がいつか彼女を辛い目に遭わせるのではないかと心配する。
二人の濃密で幸せな、陽だまりのような1年が過ぎようとした頃、元気をなくし、激しく痩せた様子の真緒に、
浩介は不安を隠しきれない。説得の末、病院で検査を受けたが異常はない。
真緒は、帰り道の公園で、冗談と言うことにして浩介に語る。13年生きてきたけど、もう限界。私の命は、これまでなの、と。私はすごい幸せ者だった。でももう少し浩介と一緒にいたかったな。涙を浮かべてつぶやく妻をいぶかる浩介に、なんちゃってー、と甘えてくる真緒。そのまま羽目を外して二人の甘い時を心ゆくまで楽しんだ翌朝、朝刊を取りに行くと部屋を出たきり、真緒は二度と戻らなかった。

と言うような展開。
基本恋愛話で、うっすらミステリ調。果たしてその正体は…。なんとファンタジーでしたとさ。
要は鶴の恩返し。真緒の正体は、中学生の浩介が拾って看病したけど1週間でいなくなった猫の生まれ変わり。つまりは猫の化身で、その正体がもたらす伏線がかなりちりばめられているので、勘のいい人なら読んでいる内に早々気づいてしまうだろう。そもそもヒロインの名前からして猫(マオ)ですがな。

しかし、このプロットを尤もらしく書こうとするあまり、あちこちに無理があるような気がしてならない。
浩介に逢いたいが為にわざわざ人間の姿になって現れたと言うのに、なぜ真緒は10年も浩介を放っておいたのだろう。好意的に解釈すれば、最終的に浩介に選ばれるために、自分を磨く期間として10年の人間修行が必要だった、という事はあるだろう。本人も作中で語っているように、思いの外人間としての暮らしや交友関係を楽しんでしまった、と言うことでもある。しかし冷静に考えると、たった1年の素晴らしい幸せの後、寿命により真緒が消えてしまう、というお涙展開の為の時間稼ぎにしか思えない。大学の4年間、東京の大学に進んだ浩介を捜すため、東京の女子大に入学してコンパしまくった、というのは納得がいかない。浩介の引っ越し先を必死で探したと言うが、学校関係者その他に聞けば棲むことなのに、(自分に酷いことをした)あんなやつらには訊きたくない、との一言で片づけてしまうのもどうか。

失踪に近い形で最愛の真緒が消えてしまったというのに、浩介のフットワークの重さは何だろう。まず事故を疑い駆けずり回るところを、自室でうろうろして、翌日には普通に出社。その後も、人々の記憶からも真緒など元々居なかったかのように消えてしまった世界での浩介の振る舞いには、どことなく作者の予定調和の匂いが漂ってくる。

さらに生まれ変わった真緒が子猫となって、また浩介の元に現れる、というラストもどうか。
帯や紹介で、これを安易にハッピーエンドと断ずる編集は、あまりに何も考えてないだろう。

結局ファンタジーなのは全く問題無い。ただし、それらしい雰囲気もなにもなく、いきなりラストにドンと持ってくる手法は乱暴だ。これでは夢オチに近く、人によってはバカにされたと憤るだろう。

主人公二人をはじめ、登場人物の描写もベッタリと浅く、あまり魅力が感じられない。ま、ラノベならこの程度でしょうと言われてもやむなしだ。主人公の男性がショボクレなのはラノベとして必須だろうからやむを得ないとして、真緒にもう少し魅力があれば多少は読めるようになったろうに。

もちろんこうした酷評の半分以上は、健康な猫がわずか13才で寿命を迎えるという作者の非道に噛みついた個人的な心情によるものではあるが、それを差し引いても、それほど見るべき物があるような作品ではないだろう。

ビーチボーイズをちょっと聴いてみたくなったな、というのが敢えて言うなら唯一の収穫か。

越谷オサム
陽だまりの彼女