大阪ハムレット 3巻/森下裕美
時間がないので簡易メモ。
今巻は5話収録。
女忍者の夏、テレパシー前後編、あいの探偵前後編、である。
相変わらず変な話ばかりで、素晴らしい。
今巻のテーマを無理に抽出すると、純粋な気持ち、だろうか。
聖人を自任し、妹の給料日に殴り倒して奪った金を、「困っている人」に分け与えるような兄。皆が神様だと言う兄を悪く言うなと母は諭すが、身内を剥ぐような兄を、妹は許せない。忍者博物館のバイトだけではやっていけないので、援交まがいの事をして生活を支える妹。上野城で見た夏の夕陽も、正義の味方になりたいと言っていた兄も、小さかった昔と寸分変わらない。大阪の援交相手の元へ身を寄せる事にして、最後に受け取った給料をめぐり、血まみれ泥まみれの兄との戦いに漂う悲しさ。そして悔しさ。「女忍者の夏」に描かれたくやしさの向かう先はどこだろうか。
「テレパシー」。暴君として君臨し、口を開けば死ね、殺す、と罵倒し、家族からも従業員からも恐れられた老社長が倒れた。一命は取り留めたが、動く事も喋る事も出来ない。キーボードで入力して音声を出す機械で、片言を喋れるようになるが、それでもやはりシネ コロス。昔いじめた近所のじじいがこれ幸いと仕返しにくるに及んで、老社長は、これまでの自らの仕打ちを顧みて妻を恐れる。しかし、夫とのテレパシーを信じている老妻は口先だけの上手には見向きもしない。彼が機械では本当の事を言わない事を見抜いていたのだ。何も喋らずとも、ただ、野良猫のように寄り添っているだけでいい、という老妻の心に積層した思いは、まさに夫婦のみが知るものだろう。
「あいの探偵」。京都の繁華街の片隅を嗅ぎ回る、ハゲでちびで薄汚い口八丁の探偵だ。でも、だかららこそ、人の情けを信じたい。養護施設で育ち辛酸を舐め尽くしてきたキャバクラ嬢のアリサ。幸せな家庭に疼くような渇望を求めるアリサは、絵に描いたような平凡な客の青年に目を留める。馴染み客のあいの探偵に調査を依頼し、望み通りの家庭環境の報告に結婚を決意する。幸せを求めて。離すかいや、と。
しかし、一方で息子の相手がキャバ嬢である事を心配した母は、同様あいの探偵に身元調査を依頼。
アリサには大人が寄ってたかって酷い事をしたのだ。「この娘は 一片も 汚れてやしません」
逡巡した後、依頼主の母にそう報告するあいの探偵。人の情を信じて真実を伝えたのだ。
しかし、思いあまった母は、キャバクラにアリサを訪ね、包丁を突きつける。とっさに腹をかばい胸を刺されてしまうアリサ。私が自分で刺したと母をかばうアリサは、血を流して倒れつつも、あいの探偵に「おっちゃん これでもう 大丈夫や」。
傷も大したことなく、病院のベッドの上でアリサは勝利の微笑み。「殺そうとした お義母さん かばってんよ」「これ以上の負い目が あるか!?」
なりふり構わない、純粋な、凄まじい程の、愛情への執念。
人の素晴らしさの一端は、その強さにある事は間違いない。
次巻も非常に楽しみである。
大阪ハムレットの過去エントリ


森下裕美 大阪ハムレット 3巻
今巻は5話収録。
女忍者の夏、テレパシー前後編、あいの探偵前後編、である。
相変わらず変な話ばかりで、素晴らしい。
今巻のテーマを無理に抽出すると、純粋な気持ち、だろうか。
聖人を自任し、妹の給料日に殴り倒して奪った金を、「困っている人」に分け与えるような兄。皆が神様だと言う兄を悪く言うなと母は諭すが、身内を剥ぐような兄を、妹は許せない。忍者博物館のバイトだけではやっていけないので、援交まがいの事をして生活を支える妹。上野城で見た夏の夕陽も、正義の味方になりたいと言っていた兄も、小さかった昔と寸分変わらない。大阪の援交相手の元へ身を寄せる事にして、最後に受け取った給料をめぐり、血まみれ泥まみれの兄との戦いに漂う悲しさ。そして悔しさ。「女忍者の夏」に描かれたくやしさの向かう先はどこだろうか。
「テレパシー」。暴君として君臨し、口を開けば死ね、殺す、と罵倒し、家族からも従業員からも恐れられた老社長が倒れた。一命は取り留めたが、動く事も喋る事も出来ない。キーボードで入力して音声を出す機械で、片言を喋れるようになるが、それでもやはりシネ コロス。昔いじめた近所のじじいがこれ幸いと仕返しにくるに及んで、老社長は、これまでの自らの仕打ちを顧みて妻を恐れる。しかし、夫とのテレパシーを信じている老妻は口先だけの上手には見向きもしない。彼が機械では本当の事を言わない事を見抜いていたのだ。何も喋らずとも、ただ、野良猫のように寄り添っているだけでいい、という老妻の心に積層した思いは、まさに夫婦のみが知るものだろう。
「あいの探偵」。京都の繁華街の片隅を嗅ぎ回る、ハゲでちびで薄汚い口八丁の探偵だ。でも、だかららこそ、人の情けを信じたい。養護施設で育ち辛酸を舐め尽くしてきたキャバクラ嬢のアリサ。幸せな家庭に疼くような渇望を求めるアリサは、絵に描いたような平凡な客の青年に目を留める。馴染み客のあいの探偵に調査を依頼し、望み通りの家庭環境の報告に結婚を決意する。幸せを求めて。離すかいや、と。
しかし、一方で息子の相手がキャバ嬢である事を心配した母は、同様あいの探偵に身元調査を依頼。
アリサには大人が寄ってたかって酷い事をしたのだ。「この娘は 一片も 汚れてやしません」
逡巡した後、依頼主の母にそう報告するあいの探偵。人の情を信じて真実を伝えたのだ。
しかし、思いあまった母は、キャバクラにアリサを訪ね、包丁を突きつける。とっさに腹をかばい胸を刺されてしまうアリサ。私が自分で刺したと母をかばうアリサは、血を流して倒れつつも、あいの探偵に「おっちゃん これでもう 大丈夫や」。
傷も大したことなく、病院のベッドの上でアリサは勝利の微笑み。「殺そうとした お義母さん かばってんよ」「これ以上の負い目が あるか!?」
なりふり構わない、純粋な、凄まじい程の、愛情への執念。
人の素晴らしさの一端は、その強さにある事は間違いない。
次巻も非常に楽しみである。
大阪ハムレットの過去エントリ