海月姫/東村アキコ
職場で4巻セットを拾った。今、我が家で最もホットなハマリ漫画である。その後追加購入して7巻まで読んだ。
オタク女子の恋愛シンデレラストーリー、といった感じ。
再開発の網から漏れたような旧地区にひっそりと佇む木造アパート、天水館。そこは腐女子の巣窟であった。この漫画では、特殊な趣味に尋常でなく入れ込んで社会生活に影響を来し自分のテリトリーに引きこもっている女性を差して、広い意味で腐女子と使われている。そんな腐女子が腐女子を呼び寄せる天水館で暮らす主人公の月海(つきみ)もまた、その名の通りのクラゲマニアであった。幼少に亡くした母の記憶と分かちがたいクラゲへの愛。その愛以外には、地位も金も才能も、何も持たない社会不適応者と自任し、鹿児島から上京して天水館に棲息し、日々クラゲを育てスケッチする日々を送っていた。
そんなある日、ペットショップのクラゲの処遇を見るに見かね、勇気を振り絞ってイケメン店員と渡り合った事をきっかけに、これまた腐女子が苦手とするオシャレで可愛い女の子と月海は知り合ってしまう。奪ってきたクラゲと一緒に部屋までついて来たオシャレ女子は、月海のクラゲ趣味を意に介せずむしろ面白いと泊まり込み、しょっちゅう遊びに来るようになる。ただでさえ苦手なオシャレ女子だったのに、さらに彼女には秘密があった。実は、女装が趣味で、近所のお屋敷に住む大物政治家の次男坊、蔵之介がオシャレ女子の正体だったのだ。オシャレ女子でさえいっぱいいっぱいであるのに、オシャレ男子など目も合わせられない月海。しかも天水館は男子禁制。天水館腐女子の面々、尼ーず達に知られたら死の制裁は必至である。
強引な蔵之介に振り回され、とまどうばかりの月海。
しかし、そんな月海の心に、深い海に漂うクラゲの発光のように、ほのかに灯る気持ちがあった。
自分とは違う世界に住むはずの蔵之介がなぜか自分に関与してくる不思議。困惑半分ながら、差し伸べられた手の、気持ちの、その暖かさに解けてゆく心の芯。
時を同じくして、再開発を狙う不動産業者が天水館の買収に動き出す。
現在、天水館には、オーナーの娘で和服オタクの智恵子、BL漫画家で天水館唯一の稼ぎ頭目白先生、三國志オタクのまやや、鉄女のばんばさん、ジジ専のジジ様、そして月海が住んでいた。韓ドラマニアのオーナーは韓国などを飛び回り、魔窟の存続などには興味なし。不動産開発会社の女狐に籠絡され、あわや天水館は風前の灯火。腐女子達の明日はどうなる?
蔵之介は、月海にどんどん惹かれていった。クラゲの棲む海のように澄んだ海月の心。ふと見せる笑顔。フルメイクしドレスアップした時の気品。恋愛など百戦錬磨の筈の自分が、引っ込み思案なオタク女子を好きになってしまうという認めがたい現実から必死で目を逸らそうとする蔵之介。
それでも、何とか月海のために天水館を守ろうと決意した蔵之介は、何かビジネスで一儲けすることを目指す。手近なところから小銭を稼ごうとフリマに出店。すると、驚くことに月海デザインのクラゲぬいぐるみが売れたのだ。
尼ーずを総動員し、現地調達した材料で現地生産したクラゲぬいぐるみを売り切る事に成功。自信を付ける。そして、亡くなった母がクラゲのウエディングドレスを作ってくれると言っていた、という月海の思い出話に触発され、クラゲのドレスで勝負に出ることを決意する蔵之介。ドレスとは、自分にとっても母との思い出のキーアイテムであり、何より、ファッション好きの自分の才能も活かせる分野だった。
月海のクラゲデザインセンス、蔵之介のプロデュース能力、そして尼ーずの労力。みんなで力を合わせて天水館を守ろうと学園祭ノリで突き進んでゆく。ファッションブランド「ジェリーフィッシュ」は成功するのか…というような所がメインのお話。
腐女子、女装男子と、特異なキャラ設定で掴み、分かり易いストーリー展開にのせて、王道の恋愛漫画を描く、といった印象で、非常に面白い。このように一見奇異な設定をよそに、核となるのは「恋は思案の外」という古典的な心情だ。なんであんな腐女子をと思いつつ月海に惹かれてしまう蔵之介。住む世界が違うとしりながら、元大臣の長男であり政治家秘書である蔵之介の兄、修に思いを寄せてしまう月海。勘違いから始まって、ゆっくりと月海への気持ちを育んできた女性経験無しの修。そんな修を籠絡しようとした土地ブローカーの女狐営業稲荷は、ミイラ取りがミイラになって修に惚れてしまう。
天水館を守ろう作戦が進む中、こうした恋愛のすれちがい模様に目が離せない。
当然の如く異性交遊のない尼ーずの面々も決して蚊帳の外ではない。
磨けばトップモデルも真っ青というまややは(本人の意向はともかく)引く手あまただろうし、ばんばさんと花森も結構怪しいのではと個人的には踏んでいる(ともに乗り物オタであるし)。また、ジジ様と蔵之介の父というのも意外とありそうだ。
この作者の漫画は初めて読んだが、パワー派の割に読みやすいと思う。はちゃめちゃであっても、どこか冷静に、一歩引いたページの印象がある。
絵柄は結構好き嫌いあるだろう。どことなく、しりあがり寿や石ノ森章太郎を彷彿とさせる。
物語は、徐々にリアリティの階段を上ってゆく。学園祭ノリからビジネスへ。自分のテリトリーから一歩踏み出し、社会という人間関係の荒波がうねる海へ足を踏み入れた腐女子達の通過儀礼だろう。
今後の展開にも目が離せない。

東村アキコ
海月姫
オタク女子の恋愛シンデレラストーリー、といった感じ。
再開発の網から漏れたような旧地区にひっそりと佇む木造アパート、天水館。そこは腐女子の巣窟であった。この漫画では、特殊な趣味に尋常でなく入れ込んで社会生活に影響を来し自分のテリトリーに引きこもっている女性を差して、広い意味で腐女子と使われている。そんな腐女子が腐女子を呼び寄せる天水館で暮らす主人公の月海(つきみ)もまた、その名の通りのクラゲマニアであった。幼少に亡くした母の記憶と分かちがたいクラゲへの愛。その愛以外には、地位も金も才能も、何も持たない社会不適応者と自任し、鹿児島から上京して天水館に棲息し、日々クラゲを育てスケッチする日々を送っていた。
そんなある日、ペットショップのクラゲの処遇を見るに見かね、勇気を振り絞ってイケメン店員と渡り合った事をきっかけに、これまた腐女子が苦手とするオシャレで可愛い女の子と月海は知り合ってしまう。奪ってきたクラゲと一緒に部屋までついて来たオシャレ女子は、月海のクラゲ趣味を意に介せずむしろ面白いと泊まり込み、しょっちゅう遊びに来るようになる。ただでさえ苦手なオシャレ女子だったのに、さらに彼女には秘密があった。実は、女装が趣味で、近所のお屋敷に住む大物政治家の次男坊、蔵之介がオシャレ女子の正体だったのだ。オシャレ女子でさえいっぱいいっぱいであるのに、オシャレ男子など目も合わせられない月海。しかも天水館は男子禁制。天水館腐女子の面々、尼ーず達に知られたら死の制裁は必至である。
強引な蔵之介に振り回され、とまどうばかりの月海。
しかし、そんな月海の心に、深い海に漂うクラゲの発光のように、ほのかに灯る気持ちがあった。
自分とは違う世界に住むはずの蔵之介がなぜか自分に関与してくる不思議。困惑半分ながら、差し伸べられた手の、気持ちの、その暖かさに解けてゆく心の芯。
時を同じくして、再開発を狙う不動産業者が天水館の買収に動き出す。
現在、天水館には、オーナーの娘で和服オタクの智恵子、BL漫画家で天水館唯一の稼ぎ頭目白先生、三國志オタクのまやや、鉄女のばんばさん、ジジ専のジジ様、そして月海が住んでいた。韓ドラマニアのオーナーは韓国などを飛び回り、魔窟の存続などには興味なし。不動産開発会社の女狐に籠絡され、あわや天水館は風前の灯火。腐女子達の明日はどうなる?
蔵之介は、月海にどんどん惹かれていった。クラゲの棲む海のように澄んだ海月の心。ふと見せる笑顔。フルメイクしドレスアップした時の気品。恋愛など百戦錬磨の筈の自分が、引っ込み思案なオタク女子を好きになってしまうという認めがたい現実から必死で目を逸らそうとする蔵之介。
それでも、何とか月海のために天水館を守ろうと決意した蔵之介は、何かビジネスで一儲けすることを目指す。手近なところから小銭を稼ごうとフリマに出店。すると、驚くことに月海デザインのクラゲぬいぐるみが売れたのだ。
尼ーずを総動員し、現地調達した材料で現地生産したクラゲぬいぐるみを売り切る事に成功。自信を付ける。そして、亡くなった母がクラゲのウエディングドレスを作ってくれると言っていた、という月海の思い出話に触発され、クラゲのドレスで勝負に出ることを決意する蔵之介。ドレスとは、自分にとっても母との思い出のキーアイテムであり、何より、ファッション好きの自分の才能も活かせる分野だった。
月海のクラゲデザインセンス、蔵之介のプロデュース能力、そして尼ーずの労力。みんなで力を合わせて天水館を守ろうと学園祭ノリで突き進んでゆく。ファッションブランド「ジェリーフィッシュ」は成功するのか…というような所がメインのお話。
腐女子、女装男子と、特異なキャラ設定で掴み、分かり易いストーリー展開にのせて、王道の恋愛漫画を描く、といった印象で、非常に面白い。このように一見奇異な設定をよそに、核となるのは「恋は思案の外」という古典的な心情だ。なんであんな腐女子をと思いつつ月海に惹かれてしまう蔵之介。住む世界が違うとしりながら、元大臣の長男であり政治家秘書である蔵之介の兄、修に思いを寄せてしまう月海。勘違いから始まって、ゆっくりと月海への気持ちを育んできた女性経験無しの修。そんな修を籠絡しようとした土地ブローカーの女狐営業稲荷は、ミイラ取りがミイラになって修に惚れてしまう。
天水館を守ろう作戦が進む中、こうした恋愛のすれちがい模様に目が離せない。
当然の如く異性交遊のない尼ーずの面々も決して蚊帳の外ではない。
磨けばトップモデルも真っ青というまややは(本人の意向はともかく)引く手あまただろうし、ばんばさんと花森も結構怪しいのではと個人的には踏んでいる(ともに乗り物オタであるし)。また、ジジ様と蔵之介の父というのも意外とありそうだ。
この作者の漫画は初めて読んだが、パワー派の割に読みやすいと思う。はちゃめちゃであっても、どこか冷静に、一歩引いたページの印象がある。
絵柄は結構好き嫌いあるだろう。どことなく、しりあがり寿や石ノ森章太郎を彷彿とさせる。
物語は、徐々にリアリティの階段を上ってゆく。学園祭ノリからビジネスへ。自分のテリトリーから一歩踏み出し、社会という人間関係の荒波がうねる海へ足を踏み入れた腐女子達の通過儀礼だろう。
今後の展開にも目が離せない。