カラクリオデット 5巻/鈴木ジュリエッタ | 読んだり観たり聴いたりしたもの

カラクリオデット 5巻/鈴木ジュリエッタ

オデットもいよいよ5巻。

今巻の目玉は、やはりトラヴィスとの絡みだろう。
トラヴィスは、天才科学者オーウェン博士の最高傑作アンドロイドである。その言動より推してオデットに匹敵する性能を持っている事が明らかだ。
かつて吉沢博士も狙われた爆弾ロボットテロ事件。そのテロロボットだったクリスを製作したのが実はオーウェンである。オーウェンは決して悪人ではない。それは依頼されて制作したもの。依頼者がどう使おうが感知しないと言う事である。
彼は生粋の科学者であるので、常に自分の最高傑作の、その先を求めていた。テロで自爆したはずのクリスから、微量な信号がずっと届いていた事に不審を持ったオーウェンは、その信号を解析し、クリスの見聞きした情報から、オデットという最高水準のアンドロイドの存在を知る。そしてそれが、彼が憧れる吉沢博士の作品である事も。
トラヴィスとオデットを融合させる事で、究極の人工生命体の創造を彼は目論み、はるばる日本までトラヴィスの「花嫁」を探しにやってきたのだった。

そうして町中で遊んでいたトラヴィスは、偶然オデットに出会うが、その自然な振る舞いからオデットを人間と思いこむ。一方のオデットはトラヴィスをロボットと見抜き、初めて自分からロボットと名乗る。僅かな不安と期待の気持ちが膨らむオデット。物語後半でトラヴィスに再開したオデットは、じっと観察しその高性能さに舌を巻く。豊かな感情表現、明確な意志、行動力。自分と同等の存在。感情表現の乏しいクリスに苛立つオデットは、クリスもトラヴィスのようだったらと願ってしまう。クリスは自分の気持ちを分かってくれない、と嘆くオデットを朝生は諭す。「じゃあ お前は アイツのこと わかったって 言えるのか?」
急ぎ家に帰ったオデットは、事故に遭いながらも、自らの性能不足を自覚し努力してオデットを理解したいと願うクリスを見て涙する。それは自身の姿であったからだ。

人間を理解したかったオデット。人と自分の違いを思い知らされたオデット。恋愛など人間の心の機微が理解できず、自身の無力さを嘆いたオデット。こうしたこれまでの体験が、相似的にオーバーラップする。
ロボットと人間の間に見いだしたオデットの悩みは、ロボットとロボットの間にも、そして人間と人間の間にも同じように偏在する、他者を理解する、という行為の原理的な困難さを提示する。そしてそれは決して下位から上位へといった一方通行な階層構造ではない、という点が素晴らしい。オデットもクリスの事を分かってあげられなかったのだ。そして吉沢博士もオデットの事を分かってあげられない事もある。
それでも分かろうと努力する事が大切だというメッセージは多くの共感を呼ぶだろう。それをこうしたロボットの性能差でカリカチュアとして描くのである。

一方で、やはりオデットの高性能さに驚いたトラヴィスは、オデットに惹かれてゆく。自分の言葉に、同じ熱量で返ってくる言葉。ぶつける感情に返ってくる感情。そんな相手を捜し求める気持ち、それは、ある意味恋なのだろうか。

こうしてまた一歩成長したオデットと、丁々発止のトラヴィスとのやり取りは今巻の一つのヤマだが、個人的に惹かれた点は実は別にある。

ツテを辿り吉沢博士に相対したオーウェンは、100億円の小切手を差し出し、オデットを譲って欲しいと持ちかけける。8年前、あなたは国際コンテストにでまくってロボット製作費用1億円を荒稼ぎしましたね、とオーウェンは迫る。「貴方も ロボット学者 なら 最高傑作をオデットで 終わらせる気は ないでしょう?」
しかし、我らが吉沢博士はあっさりと小切手を破り捨てる。
「俺は オデットの ネジの1本まで 愛してる!!」
その朝博士と喧嘩をしたため、「捨てないで」と、隠れてこのやり取りを固唾を呑んで見守っていたオデットは、嬉しさに泣きそうになりながら博士に飛びつく。
この日はクリスを迎えに行く日であったが、久々に博士と会ったクリスはずっと博士にしがみついたままだった。制作者のオーウェンに連れ戻される事を恐れたためだ。実はクリスはどこも壊れていなかったが、オーウェンに信号を探られている事を感知したので、自ら起動を拒んできたのだった。「誰も つれて いきやしない」と優しくクリスを迎える博士。
私が個人的に素晴らしいと思うのは、こうした博士のロボットに対する愛情の細やかさである。とくに、本当に親身になってクリスの世話を焼き、その成長を喜ぶ姿には、ちょっと胸が熱くなるほどだ。俄然、吉沢博士の好感度が上がる。ファンといっても良いだろう。

その他の話も良い。
本編の間に挿入されたクリスの兄弟のエピソードは、幸せの「かたち」を多重的な視点で描いて素晴らしいし、巻頭の、カッコイイオデットもじんわりとした読後感だ。

いよいよ次巻でお終いかと思うと寂しい気持ちで一杯である。

ところで、今巻からちょっとタッチが変わって、キャラが若干細長くなってきた気がする。
緩急が付いた豊かな表現はマンガとしてはレベルアップだと思うが、オデットにはもう少し無機質なタッチが合うような気もするな。

カラクリオデットの過去エントリ

鈴木ジュリエッタ
カラクリオデット 5巻