カラクリオデット 3巻/鈴木ジュリエッタ | 読んだり観たり聴いたりしたもの

カラクリオデット 3巻/鈴木ジュリエッタ

もし、「その年に読んだ漫画」の中でベストを決めるマンガオブザイヤーなるものを個人的に行ったとしたら。
今年はもうオデットの受賞に決めちゃって良いです。

そんな感じの非常にヤバいハマり方である。ちなみに去年は君届で、一昨年はフルバかな。

今巻、ぐっとクローズアップされるのが前巻末より引き続きの「恋愛感情」である。
オデットに恋した1年生の柚木村が、友達のミカちゃんに尻を叩かれながら、果敢にオデットにアタックする。
相変わらず「好き」が分からないオデットは、洋子を真似て消しゴムのおまじないをしてみるが、もちろんそれで恋愛に目覚める訳もない。想い人の名を書けない、無記名のおまじない消しゴムを誰にも見せないよう必死で守るオデットがいじらしい。
しかし、思い詰めた柚木村に消しゴムを取られ見られてしまう。「俺は あなたが 好きなんだ ちゃんと 言ったよね?」「自分のライバルの 名前を知っておく 権利がある!」と真剣な柚木村の眼差しから、オデットは逃げだした。自分の気持ちが分からない不安。「好き」が理解できない。柚木村の言っている事が半分も理解できない悲しさ。真剣な瞳にどう応えたらいいのか。オデットは柚木村を避け始める。

また、オデットは「ごめんなさい」も知る。洋子が1年に告白された事がきっかけだ。好きな人は、ただ一人。それ以外の人には「ごめんなさい」のルール。朝生と共に洋子が「ごめんなさい」する場面をたまたま見てしまったオデットは、そこで、その1年生の落胆と、その裏返しである洋子に対する失望の態度を目撃して衝撃を受ける。

単純な「好き」しか知らないオデットに襲いかかる複雑な心理の荒波。
好きと言ってくれた柚木村は、もしオデットがロボットだと知ったら失望するのか。好きって何なんだ。どう応えたらいいのだろう。

オデットの心理回路はこうした過負荷に耐えかねたのか、異常な速度でバッテリを消費するようになる。
もはや携帯型充電器では追いつかず、オデットはずっしりと重いフル充電器を、鋼鉄製のリュックよろしく背負って通学するハメに。また、同じようなバッテリ問題が発生したクリスは、その繊細さ故か、早々に活動を停止してしまった。

朝生の妹の花梨にアドバイスを受け、なんとか柚木村と仲直りできたオデットだが、バッテリ問題でしょっちゅう朝生に頼るようになった彼女を、苦々しく思うものがいた。柚木村の友人でアドバイザーのミカである。
ミカと買い物に付き合わされた柚木村に、偶然出くわしたオデット。これ幸いとミカが詰め寄る「あなた 黒瀬朝生と どーゆー関係 なの?」。「オデットは 朝生のこと 好きだよ」「柚木村の ことも好き」「皆好き」と、ミカの意図は汲めないオデットは、逆鱗に触れられ飛び出したミカを追い、逆に無意識にミカを追いつめる「ミカは 朝生のこと 好きなんだね」。覚悟を決めたミカは、もし私が柚木村に近づくなと言ったらどうするかとオデットを試すが、理解できないオデットは反応無し。婉曲はやめ、朝生に近づくなとミカが言いかけると、オデットは突然その場を後にする。柚木村との仲直り以来調子の良かったバッテリが、また急速に減り始めたのだ。

柚木村への「好き」と、朝生への「好き」は違う。自身はまだ気づいていないオデットのこの感情をミカは悟る。「アンタ… 可哀想な 奴だよ…」と迎えに来た柚木村に流す涙は、本当は、強力なライバルの出現したミカ自身への憐憫であった。

「好き」が分からないと悩むオデットの心理回路にも、本人の気づかない「好き」の萌芽が進んでいた。
オデットの悩みをよそに岡田との仲を順調に進める洋子はついに週末二人でピクシーランドへデートに漕ぎ着ける。洋子と一緒にピクシーランドへ行きたいオデットに、洋子は引きつつもWデートならと譲歩。何とか朝生を引っ張り出して、ピクシーランドではしゃぐオデットの、その生き生きとした表情はどうだ。この「心理回路の発達で最近表情が人間っぽくなってきたが、あくまで表情の乏しいアンドロイドが、しかし普段に増してはしゃいで楽しんでいる様子」という極めて複雑な状況を、完全に表現しきっている描写力には、本当に感服して心酔した。

とにかく、オデットのアンドロイド臭さが最高なのである。表情、行動、台詞、そしてポーズや構図、どれも素晴らしい筆致だろう。
見えてはいるがピントの合っていない瞳。聞こえてはいるが理解できない言葉。幾重にも制限されるヒトとは異なる体。そして、難しくてさっぱり分からない人の気持ち。

しかし、そうしたオデットのもつ弱みや悩みは、取りも直さず、私たち自身の弱みや悩みである。例え他人とは違っていても、ひたすらに人を信じ、人を求め、人にぶつかってゆく、そんなオデットから目が離せないのは、複雑な社会で他人との関係性に悩む青年期の人間を、このアンドロイドの振る舞いがとても勇気づけてくれるからだろう。

巻頭の迷子猫チロロを探すエピソードも良い。猫を飼い始めたという著者の体験が活かされている。

と言う事で、第4巻にも期待大だが、全6巻と言う事が分かってしまっているこの辛さはどうだ。後3巻しか読めないなんて残念すぎる。

カラクリオデットの過去エントリ


鈴木ジュリエッタ
カラクリオデット 3巻