ポジティブ病の国、アメリカ/B.エーレンライク | 読んだり観たり聴いたりしたもの

ポジティブ病の国、アメリカ/B.エーレンライク

この本は、ポジティブシンキングというものの闇と、同時にアメリカ社会の抱える闇について書いたものである。

一般的には、ポジティブシンキングは良いものだと思われている。日本でも、明るい性格が好まれる。明るく前向きな意識と免疫力についての相関の研究もある。

ただし、何事も極端は良くない。ポジティブシンキングを信奉するあまり、ネガティブを一切受け入れられなくなったアメリカ社会の実例が、この本では多数語られている。
例えば、筆者が乳ガンを患った際に参加した患者の会では、ポジティブシンキングでガンを克服しよう!というのがスローガンのようなのだ。別に良い事だと思うだろう?しかし、このモットーはこの会の会員達にかなり極端に作用しているのだ。ポジティブシンキングがガンや闘病生活のQOLに良い効果をもたらすだろう、という程度の甘い考えではない。もしあなたのガンが治らないとすれば、それはポジティブシンキングが足らないから。そこまで言い切ってしまうのだ。すでにこれはポジティブシンキング教以外のなにものでもない。
この会では、闘病の辛さや予後の心配など、ネガティブな感情や話は、一切タブー扱いなのである。うっかりガンであることの愚痴をこぼそうものなら他の会員から痛烈な批判をくらう。会員達はポジティブシンキングでガンを克服した元患者をカリスマのように崇め、それらカリスマが話す、ガンは得難い素晴らしい体験でした、というメッセージを競うように繰り返し、乳ガンになって良かった、私の人生の最高の贈り物です、というような正気を疑うほどの超ポジティブシンキングにのめり込んでいるのだ。一方で医学的な治療はあまり重視されない。本気で、ポジティブシンキングだけで治ると思っているのだ。

これは病を治したいあまりの特殊な例という訳ではない。

他には、日本でもかなり流行っているが、一種の成功本ブームがあるらしい。これは、成功は考える事によってもたらされる、思考は現実化する、ポジティブシンキングで人生を良くしよう、という様な内容の自己啓発本のグループだ。成功したければ、成功している自分をひたすら思い描け、という様なよく聞く内容である。これは、目標について熟慮すると、そこへ至る道が自然と分かってくるし、常に目標を意識して行動が変わるので成功に近づくのだ、だから成功をひたすら考え、そして「それに向けて行動しろ」という様な意味なのだろうと思っていたが、違うのだ。
本当に、「思うだけ」で良いのである。成功はポジティブシンキングそのものがもたらすのだ。だから成功出来てないとすれば、あなたの行動が悪いのではなく、ポジティブシンキングが足らないのだ。これが成功本の説く、超ポジティブシンキングである。
アメリカではこうした内容を広く講演する事を生業とするモチベーションスピーカーという一種のカウンセラーが大流行の様子である。彼らは概して儲かっておりそのリッチさを惜しげもなく晒し、人生で成功する事なんて簡単なんですよ?ポジティブに考えるだけなんです。あなたはなぜまだ成功してないんですか?と迫ってくる訳だ。

他にも、ネガティブだからという理由で解雇されるなど多数の事例が載っている。

どうしてこのようなポジティブシンキング病が流行っているのか、著者は分析しているが、ヨーロッパからの移民というアメリカの由来のもつ開拓者精神や、そこで元々維持されていたかなり禁欲で厳格な宗教規範の変遷など、色々な要因はありそうだが、はっきりとした事はまとめられていない。

ポジティブシンキングは、アメリカではビジネスであり政治なのだと言う事がよく分かった。
一儲けしようと思うなら形ある商品など何も要らない。あなたは考えるだけで成功しますと説き、本を書いて売ればいいのだ。成功からほど遠くそしてこれからも決して成功しないだろう人達が群がってお金を落としてくれる。
また、仕事を首になったり、社会保障の不備から貧困や劣悪な境遇に苦しんでいる人達が居たなら、彼らの怒りの矛先が向く前に政治家や資本家はこう言えばいい。あなたが酷い環境に苦しんでいるのは、私のせいではありません。なぜなら、あなたは考えるだけで成功出来るのだから。まだ成功していないのなら、どうしてもっとポジティブシンキングしないんですか?と。

結局、極端な考え方、たとえそれがポジティブでもネガティブでも凝り固まった考えでは身を滅ぼすと言う事だ。自分で正しくよく考える事ができなければ、より考える事のできる奴の餌になるだけ。これが競争する資本主義社会の本質である。


B.エーレンライク
ポジティブ病の国、アメリカ