エリア88/新谷かおる
以前にSFCのシューティングの話を描いたが、原作をまともに読んだ事はなかった。
今回、やはり例によって妻がお奨めマンガと言う事で調べてきて読み始めたので、これを機会にじっくりと文庫版で読んでみた。
素晴らしい漫画だろう。
こんなに夢中でわくわくしながら読んだ漫画も久しい。
アクション、サスペンス、そしてもちろん空戦シーン。テンポが良く、展開も早い。それでいて心情も背景も描き漏らしがない。密度の高い、ぎゅっと身の詰まった漫画だと思う。
主人公の真は血に染まった自分の手を呪いながら、それでもやはり戦場に戻ってしまう。戦場でしか「生き」られなくなった真が、最後に幸せを掴むためには、一旦自分自身を殺し、そして生まれ変わるしかなかった。しかし眠れる記憶がいつ戻るかも知れない不安ゆえ、涼子との未来から消えて無くなる事はない闇の暗示。業としか言い様のない、圧倒的な哀しみが物語の幕を引く。
戦場とは人が死んでいく場所である。ついさっきまで笑っていた奴が、今はもう死んでいる。どんな登場人物も、いつ死んでもおかしくない緊張感に包まれている。真ですら振り払えない死の気配が、物語の絶対的ルールとして真ん中を貫いていることによるリアリティ。
魅力的なキャラクターに、多彩なイベント、本筋の展開も緩急自在で目が離せない。
同じパイロット物語でも、スカイクロラとはかなり趣が違う。
本作では、人間は人を殺さない、という前提で構築されるヒューマニティーを基盤に、それが徹底的に破壊される場所としての戦場を描き、そのヒューマニティーの十戒に苦しむ人間としての心情を描いている。空を飛ぶ事自体は、自己表現・自己実現の重要な要素であるが、それ自体が純粋な目的ではない。
一方でスカイクロラは、人間は人を殺す、という前提で構築されるヒューマニティーを基盤とし、空を飛ぶという絶対的で純粋な目的のために、ヒューマニティーの盲目的で局部的な仮初めの実行がなされる場所、それが戦場となっている。
後者は一見知的に見えるが、物語としては紡ぐのが楽で、ただしその分心象が薄くなりがちである。前者は平凡で泥臭く見えるかも知れないが、これで本当に濃い物語を作りきるのは並大抵の力量ではできないだろう。
新谷かおる
エリア88
今回、やはり例によって妻がお奨めマンガと言う事で調べてきて読み始めたので、これを機会にじっくりと文庫版で読んでみた。
素晴らしい漫画だろう。
こんなに夢中でわくわくしながら読んだ漫画も久しい。
アクション、サスペンス、そしてもちろん空戦シーン。テンポが良く、展開も早い。それでいて心情も背景も描き漏らしがない。密度の高い、ぎゅっと身の詰まった漫画だと思う。
主人公の真は血に染まった自分の手を呪いながら、それでもやはり戦場に戻ってしまう。戦場でしか「生き」られなくなった真が、最後に幸せを掴むためには、一旦自分自身を殺し、そして生まれ変わるしかなかった。しかし眠れる記憶がいつ戻るかも知れない不安ゆえ、涼子との未来から消えて無くなる事はない闇の暗示。業としか言い様のない、圧倒的な哀しみが物語の幕を引く。
戦場とは人が死んでいく場所である。ついさっきまで笑っていた奴が、今はもう死んでいる。どんな登場人物も、いつ死んでもおかしくない緊張感に包まれている。真ですら振り払えない死の気配が、物語の絶対的ルールとして真ん中を貫いていることによるリアリティ。
魅力的なキャラクターに、多彩なイベント、本筋の展開も緩急自在で目が離せない。
同じパイロット物語でも、スカイクロラとはかなり趣が違う。
本作では、人間は人を殺さない、という前提で構築されるヒューマニティーを基盤に、それが徹底的に破壊される場所としての戦場を描き、そのヒューマニティーの十戒に苦しむ人間としての心情を描いている。空を飛ぶ事自体は、自己表現・自己実現の重要な要素であるが、それ自体が純粋な目的ではない。
一方でスカイクロラは、人間は人を殺す、という前提で構築されるヒューマニティーを基盤とし、空を飛ぶという絶対的で純粋な目的のために、ヒューマニティーの盲目的で局部的な仮初めの実行がなされる場所、それが戦場となっている。
後者は一見知的に見えるが、物語としては紡ぐのが楽で、ただしその分心象が薄くなりがちである。前者は平凡で泥臭く見えるかも知れないが、これで本当に濃い物語を作りきるのは並大抵の力量ではできないだろう。