ラテに感謝! 転落エリートの私を救った世界最高の仕事/マイケル・ゲイツ・ギル
アメリカ白人裕福層でエリートとして生きてきた著者のマイケルは、一流企業の役員を解雇された事を契機に、50代で仕事も家族も子供の頃から住み慣れた家も失ってしまう。もはや生活費も無くなった彼を救ったのは、スターバックスでの店員(バリスタと言うらしい)の仕事だった。
以前のエリートの彼なら考えられないような底辺の職場で人生初めての肉体労働に身を窶しても生活費を稼がねばならない惨めさに打ちのめされつつ、しかし日々の糧を得られる安堵も得た彼だったが、仕事を逃すまいと打ち込むうちに、仕事の魅力、何よりスターバックスという職場のすばらしさに気づき、ある日突然、自分がこれまでの人生では得られなかったような「幸せ」を感じている事を発見する。
それはすべてスターバックスとの奇跡的な出逢いから生まれたものだった。
スターバックスの、お客、そしてパートナー(従業員)相互の尊重を重視する企業理念が、店長のクリスタルを薫陶し、彼女は落ちぶれ果てていたマイケルと奇跡的な出逢いを通じてマイケルを救い、スタバの仕事と仲間達はマイケルを変え、そしてマイケルはスタバと仲間達のために働く事で充実した人生を手に入れる好循環が生まれていく。
そんな著者の自伝なのだが、語りがテンポ良くて、サクサク読ませる。構成や語りはウィルソンの児童文学などによく似ていて、もう少しペーソスを利かせた感じ。
お話として見てみるとかなり面白く構成されており引き込まれる。人生を失いかけた老人が、お金のための仕事ではなく、誰かのために仕事をすると言う経験を初めて学び、それによって救われ、人生を輝かしいものに変えていく話。そう考えると感動的だし、教科書に使われるようないい話だな、と一見思うが、事はそう簡単ではない。
まず、スターバックスを持ち上げすぎて、非の打ち所のない完璧な職場として描かれているが、それは逆に胡散臭い。あいにくこの企業の日本法人の営業店は利用した経験が無いので、彼が著書中で述べているような店の雰囲気や経営理念の実践状況の程は分からない。もちろん、彼が繰り返し繰り返ししつこいほど書いているように、きっと素晴らしい企業なのだろうとは思うが、読んでいると何故かアムウェイが頭に浮かんだ。
また、彼の落ちぶれるまでの人生は、かなり恵まれたものである。特に彼の父の交友関係を通じて彼にもたらされた出逢いや経験は得難いものであり、エピソードとして上手に挿入されるそうした逸話は本書の価値を極めて高め、またスタバでの仕事上のアドバンテージももたらしている。
さらに、彼が失脚し没落し家族を失うまでの経緯は、彼の行動特に浮気に主因があるなど一般的にはかなり同情しづらいもので、あまり共感できるものではない。特に、徐々に関係を改善していく子供達と対比して、彼に浮気され失意のうちに離婚した妻の事は、その後全く何も語られない。悔やむ気持ちも、謝罪の言葉もない。
そして、アメリカの抱える人種間対立やスラム・社会保険の問題など、日本ではなじみの薄かった事柄については、非常に興味深いものの、平均的日本人としては簡単に理解できる背景ではない。
スタバでの彼の同僚はみんな若者のバイトだ。時給10ドルでは、単身の若者か、子育てし終わった単身の老人しか生計を立てる事はできないだろうから至極当然の帰結である。
だからこの本を、どんな詰まらないと思う仕事でも一生懸命やればいつか幸せになれるよ、という様な安易な訓話にまとめてしまうことは決してできない。
スターバックスという特殊な環境で、彼のような余人の及ばない裕福層特有の経験を持った人物が、奇跡のような素晴らしい仲間に恵まれて、それまで得られなかった啓示を得て人生を充実させたと身勝手に思いこんだ、という、極めて特殊な事例にすぎない。
斜に構えた人なら、超一流の広告企業でディレクターから役員まで勤め上げた広告のプロである著者は、身を挺してスタバのプロモーションを行う事で一体如何ほど巨額の契約金を得たのだろうかと勘繰らずにはいられないだろう。
マイケル・ゲイツ・ギル
ラテに感謝! 転落エリートの私を救った世界最高の仕事
以前のエリートの彼なら考えられないような底辺の職場で人生初めての肉体労働に身を窶しても生活費を稼がねばならない惨めさに打ちのめされつつ、しかし日々の糧を得られる安堵も得た彼だったが、仕事を逃すまいと打ち込むうちに、仕事の魅力、何よりスターバックスという職場のすばらしさに気づき、ある日突然、自分がこれまでの人生では得られなかったような「幸せ」を感じている事を発見する。
それはすべてスターバックスとの奇跡的な出逢いから生まれたものだった。
スターバックスの、お客、そしてパートナー(従業員)相互の尊重を重視する企業理念が、店長のクリスタルを薫陶し、彼女は落ちぶれ果てていたマイケルと奇跡的な出逢いを通じてマイケルを救い、スタバの仕事と仲間達はマイケルを変え、そしてマイケルはスタバと仲間達のために働く事で充実した人生を手に入れる好循環が生まれていく。
そんな著者の自伝なのだが、語りがテンポ良くて、サクサク読ませる。構成や語りはウィルソンの児童文学などによく似ていて、もう少しペーソスを利かせた感じ。
お話として見てみるとかなり面白く構成されており引き込まれる。人生を失いかけた老人が、お金のための仕事ではなく、誰かのために仕事をすると言う経験を初めて学び、それによって救われ、人生を輝かしいものに変えていく話。そう考えると感動的だし、教科書に使われるようないい話だな、と一見思うが、事はそう簡単ではない。
まず、スターバックスを持ち上げすぎて、非の打ち所のない完璧な職場として描かれているが、それは逆に胡散臭い。あいにくこの企業の日本法人の営業店は利用した経験が無いので、彼が著書中で述べているような店の雰囲気や経営理念の実践状況の程は分からない。もちろん、彼が繰り返し繰り返ししつこいほど書いているように、きっと素晴らしい企業なのだろうとは思うが、読んでいると何故かアムウェイが頭に浮かんだ。
また、彼の落ちぶれるまでの人生は、かなり恵まれたものである。特に彼の父の交友関係を通じて彼にもたらされた出逢いや経験は得難いものであり、エピソードとして上手に挿入されるそうした逸話は本書の価値を極めて高め、またスタバでの仕事上のアドバンテージももたらしている。
さらに、彼が失脚し没落し家族を失うまでの経緯は、彼の行動特に浮気に主因があるなど一般的にはかなり同情しづらいもので、あまり共感できるものではない。特に、徐々に関係を改善していく子供達と対比して、彼に浮気され失意のうちに離婚した妻の事は、その後全く何も語られない。悔やむ気持ちも、謝罪の言葉もない。
そして、アメリカの抱える人種間対立やスラム・社会保険の問題など、日本ではなじみの薄かった事柄については、非常に興味深いものの、平均的日本人としては簡単に理解できる背景ではない。
スタバでの彼の同僚はみんな若者のバイトだ。時給10ドルでは、単身の若者か、子育てし終わった単身の老人しか生計を立てる事はできないだろうから至極当然の帰結である。
だからこの本を、どんな詰まらないと思う仕事でも一生懸命やればいつか幸せになれるよ、という様な安易な訓話にまとめてしまうことは決してできない。
スターバックスという特殊な環境で、彼のような余人の及ばない裕福層特有の経験を持った人物が、奇跡のような素晴らしい仲間に恵まれて、それまで得られなかった啓示を得て人生を充実させたと身勝手に思いこんだ、という、極めて特殊な事例にすぎない。
斜に構えた人なら、超一流の広告企業でディレクターから役員まで勤め上げた広告のプロである著者は、身を挺してスタバのプロモーションを行う事で一体如何ほど巨額の契約金を得たのだろうかと勘繰らずにはいられないだろう。