ICO 霧の城/宮部みゆき | 読んだり観たり聴いたりしたもの

ICO 霧の城/宮部みゆき

有名なゲーマーである宮部みゆきは、実は小説家でもある、という事をご存じだろうか。

などと書くとファンにしかられそうだが、実際、宮部みゆきのゲーマーぶりはちょくちょく耳にするものの、その著作は実はまだ1冊も読んだ事はなかった。今回初めて読んだのが、これ。
PS2での同名ゲーム「ICO」のノベライズである。もちろんこれが宮部みゆきの代表作という訳ではないだろうが。

結論から言うと、面白かった。非常に面白かった。
同名ゲームをプレイした事があり、しかもそれにかなり高評価を与えていて、しかも宮部みゆきの他の本は読んだ事がないと言う、かなり少数派の印象なので特殊ではあるが、しかし多分、ゲームをプレイした事がない普通の人が普通のファンタジー小説として読んでも、そこそこは楽しめるものと思う。

そもそも、同名ゲームをプレイして感銘を受けた宮部が思わず勝手に書いてしまったお話を、後日ソニーに持ち込んで生まれたのが本書だという逸話もある程だ。筆が乗らない訳がない。

実際、ゲームの一ファンとして勝手に妄想した裏設定満載の1章や3章がかなり面白く、逆に、主にゲーム場面をなぞっていく2章4章は、その縛りのせいか凡庸でつまらない。
特に2章のゲームでのスタートシーンからの数十ページは苦痛もいいところ。宮部はまさかゲームの全シーンを書き下ろす気かと暗澹たる気持ちになって、本書を読むのを止めようかとさえ思ったほどだ。就寝前の僅かな時間が読書タイムであるが、2章はすぐに眠くなり1ページ進むのも大変な苦労をかけ、雪山の行軍もかくやと言うのろさで、この章だけで読み切るのに1週間以上掛かったほどだった。

それでも、あのゲームのノベライズだから頑張って読んでみようかと、何とかたどり着いた3章は、ヨルダの過去を描いてこれが絶品である。あまりに面白くてすぐに読んでしまい、結局その勢いで4章も読み切ってその日の内に読了してしまった程だ。

ゲームの主人公はイコであるが、この本の主人公は、ヨルダである。
ただし、無理矢理ゲーム設定に接続しているので、その魅力が減じてしまっているのが残念だ。2章4章はカットして、エンディングもゲームとのつながりも無視して、3章メインで仕立ててくれたら最高だったろう。タイトルもイコではなく、ヨルダにすべきだ。どうせやるならノベライズとしてそこまでやって欲しいと思った。原作を立てて原作をなぞり、原作の範囲内で行動して結局そこへ着地するようなせせこましいものならノベライズの存在意義など無い。原作をはみ出し覆し破壊するほどの妄想を見せて欲しかった。原作のファンだからこそ、そう思うのである。

小説家としての宮部みゆきは、割合読みやすい作家だったと思う。
ストーリー展開を読ませるのが上手いと思った。情景の描写も質感がいい。
ただ、空間構造の描写力は今ひとつ、アクション描写力は今ふたつぐらいなので、アドベンチャーものは向いてないだろう。

宮部みゆき
ICO 霧の城