小人たちが騒ぐので/川原泉 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

小人たちが騒ぐので/川原泉

買ってはいたものの、忙しくて読めなかったが、仕事がちょっと落ち着いたのでやっと読んだ。
この漫画は以前、川原ファンの友人に川原本の話をしたとき、熱心なファンであろう彼をして「痛々しくて泣けてくる」と言わしめた曰く付きの本である。よって読むのが非常に楽しみであったが、読んでみてなるほど彼の心情に得心がいった。

何というか、描いてはいけないような本であるような気がした。
締め切りの厳しさや、ネタが出ない漫画家の苦悩や、白い原稿用紙の恐怖は、漫画にとってはおなじみのネタではある。しかし、現実の苦悩をネタとして昇華して諧謔へもっていくから漫画なのであって、苦悩が苦悩のまま描かれている本作は、いわば、文字通りの意味で漫画の私小説なのでは無いかと思った。ある意味、画期的なのかも知れないが、そう絶賛するにはパワーが弱い。慌てて仕上げた夏休みの宿題のアラを、先生に見つからないようにとおどおどしている小学生のようだ。たしかに痛々しい。これは繊細な神経の読者には堪らないだろうなと思った。

どうせ描けないなら、割り切って、度胸を据えて、挑戦しても良かったかも知れない。
例えば、作中に見開き書き文字でページを稼ぐという手法が出てくるが、思い切って、全ページ見開きで描いたらどうだっただろうか。思えば、島本和彦の連続見開き6ページという荒技を初めて見たときのインパクトは凄かった。これで彼のファンになったという点も少なからず、そう、5%ぐらいはあるだろう。
また、同様にジョン・ゲージの4分33秒をモチーフにした作品もあるが、これも始めから終わりまで一貫して通したらそれなりの作品になったのではないか。例えば、ペンを持った川原泉が白バックに現れて、いすに座る。つと目を閉じる。あとは延々と氏の遠近描写でコマを割って、ラストのコマでお辞儀をする。そしてさり気なくタイトル「3分44秒」。


川原泉
小人たちが騒ぐので