キリンヤガ/M・レズニック | 読んだり観たり聴いたりしたもの

キリンヤガ/M・レズニック

内容を一言で言うと、アフリカの伝統部族の生活を実践するために地球外のユートピア惑星に移住した部族末裔とそれを率いる指導者の物語。
これだけではほとんどの人は食指が動かないと思うが、読んでみるとめっぽう面白い。
誇り高きアフリカ部族の伝統は、近代のヨーロッパ文明の汚染により崩壊し、その末裔は汚染の呪いとも言える貧困と地位低下に苦しんでいる。ならば純粋な部族社会を隔離された世界に再現しようと試みるわけだが、最終的には崩壊し哀しい結末を迎える。
主人公の指導者は欧米の大学で博士号を複数持つような学者肌。両文化の酸いも甘いもかみ分けて、その上で伝統社会の再生を心から願う老人だ。キリンヤガはそうした彼らが作り出したユートピアだ。
文化・伝統とは生き物だ。人の心を介して生命を与えられた無形の意志である。だからキリンヤガが崩壊するのは、死体は腐る、という事と同じである。部族の伝統社会の状況を完全に再現できない以上、形式だけ維持する事は無理な話なのである。主人公も当然そうした事は分かっている。分かっているが、自らの理想のために部族社会の維持に励む。しかし崩壊していく社会を止める事はできない。ここに激しい哀しみが生まれる。
一つには望郷の念がある。永遠にたどり着けない理想の故郷。それが哀しい。
さらには、移りゆく人の心の悲しさ。理想郷建設をともに掲げた仲間たちがついには指導者たる自分を無視し始めるのだ。迫害ではない。革命でもない。哀れな無力な老人として捨て置かれるのだ。ほぼ瞬間といってもいいほどのドラスティックな変遷に、理想郷という共同幻想は粉微塵に砕かれ散る。他人は自分ではない。同じ想いを抱いていたと感じても全く同じではなくしかも変遷する。深淵に阻まれた如くの相互不理解。社会それ自体が幻想であるという諦観。
これはキリンヤガでのアフリカ部族の話などではない。私が望む社会は、あなたが望む社会ではない、というどうしようもないほどの真理が老人の姿となって迫ってくるのだ。この結末に圧倒されない人はいないだろう。
ストーリーやプロットも秀逸なので万人に安心して薦められる。

マイク レズニック, Mike Resnick, 内田 昌之
キリンヤガ