氷に刻まれた地球11万年の記憶/R・アレイ | 読んだり観たり聴いたりしたもの

氷に刻まれた地球11万年の記憶/R・アレイ

大変お薦めな、ファイ・ベータ・カッパ科学部門賞受賞作。とても面白い。

グリーンランドの氷河・氷床から柱状に抜き取った氷柱を調べる事により、過去11万年の気候変動が手に取るように分かるという。どのようにサンプル採取するのか?どのように分析するのか?結果をどう理解するのか?が、きちんと丁寧に書かれており好感。

普通の人なら、積年の氷柱を分析して過去の気候を推定、といえば、ぼんやりとでも多少はイメージが浮かぶだろう。氷に含まれる微量成分を調べるんだろう、と言った具合だ。しかし、実際の現場での詳細こそが科学の醍醐味であり、この本は、そうした「科学への橋渡し」をきちんとしているので、読んでいて楽しいのだ。また、そうした点が受賞の理由でもあるのだろう。

氷のオーブン効果(?)の話には驚いた。これは過去の気温を推測する手法の話だが、なんと、現在の氷の温度を直接測定する事により過去の気温を推定するというのだ。その原理は、寒い時代を経験した氷は冷たく、暖かい時代の氷は温度が上がっている、というもの。温度分布は当然拡散するが、その拡散の状態を調べれば実用的な推定ができるという。このように過去の気温が直接的に保存されているというのは、なかなか衝撃的だった。

気候の話で、現代の温暖化に触れない訳にはいかない。著者の結論の概要はこうだ。
過去11万年の気候を分析した結果、現在は、過去に類を見ないほど気温が安定している時代の一つだという。つまり、気候・気温は、極めて激しく変動(それも地質学的な期間でなく、数年とか数十年といった人間に身近なスパンでの変動)を繰り返す事の方が普通なのだ。CO2と温暖化の間に横たわるメカニズムは複雑でとても解明されたと言うにはほど遠い状態だから、その理論だけを見て、温暖化する、いやしない、と予測する事は、現在ではまだたいした意味はない。しかし、たまたま精密機械のように極度に安定している現在の気候に、わざわざ波紋を生じさせるような小石を投じれば、極めて不安定な変動しやすい気候本来の状態に簡単に移行してしまう事はあり得ない事ではない。不要なちょっかいは出さない方が身のためだ、という事になる。

非常に同感であって、私も自分の寿命が尽きるぐらいの間は、できれば穏やかな気候のうちに過ごしたいものだと思う。

本書独特の、邦人科学者の書籍にはあまり見られない、ファインマンのようなフランクな比喩や物言いは、好みの分かれるところかも知れないが、私は好きだ。

著者: リチャード・B. アレイ, Richard B. Alley, 山崎淳
タイトル: 氷に刻まれた地球11万年の記憶―温暖化は氷河期を招く