亡国のイージス/福井晴敏
著者の代表作をようやく読了。
まず、ひとこと。
とにかく長かった。当然だが、長い事自体が悪ではない。長さを気にさせない小説・たくさんの残りページ数が嬉しい小説ももちろんある。2段組600ページ超は、読んでも読んでも減らず、なんども嘆息した。
つぎに内容。
処女作「川の深さは」は、きっとこの「イージス」の習作なのだろう。同じような話だった。どっちかを読めば、もう片方は読まずともいいだろう。
「川の深さは」にくらべれば、作品のレベルはかなり上がっている。多少は腕を上げたのだろう。その代わり長い。好きな方を選んで欲しいが、初めての人には短い前作をお薦めしたい。
面白いかどうか、という点では、面白い。上質のエンタテインメントとして、万人向けだ。アメリカのアクション映画がすきなひとだったら、間違いなく楽しめると思う。ミステリっぽい仕掛けもある。ただ、やはりそれ以上のものではない。三賞受賞と聞いて期待を持ちすぎて正当に評価できていないのだろうが、それほどの作品ではない、という読後の感触は拭えない。
たぶん、この著者とは、表現の感覚が合わないのだろう。読んでいてまったくしっくり来ない。作者が泣かせようとした場面で、泣きたいなあ、と思っているのに、泣けない。琴糸をかき鳴らして欲しい場面で、最後の一歩が退けている。届いてこない。この本の紹介で、「熱い文章」「熱い台詞」「熱い男たち」と、サウナのように熱い熱いと語られているが、その熱さが上っ面で横滑りしていて、まったく地に足が着いていないのだ。
ストーリーは面白い。壮大ですらある。でもその壮大さに筆が付いていけず、結局は描き切れていない印象だ。無事ストーリーを描き切り、それを読ませ切る。それだけの力は文句なしにあるのだが、残念ながらそこまでだ。どこかの紹介文で、本作を圧倒的筆力とあったが、きっと何かの冗談だろう。
決定的に、人物と世界が描けていないのだ。前作もそうだった。人物は薄っぺらで、出てくる多数の人間の区別が付かないし、唐突な行動も発言も、腑に落ちず理解しがたいまま放っておかれる。熱い台詞をはいて熱い行動を取るが、まるで、俳優がシナリオ通りに動いているようだ。風景描写は紙に書いた絵のようで、テレビ画面を通して見ているかのようにリアル感が無く迫ってこない。カットバックを多用しているにもかかわらず、全く「世界」が浮かび上がってこないのだ。それは、国家を論じるテーマでありながら、結局は物語が狭い部屋の中だけで語られていることにも関係があるだろう。イージス艦という部屋。防衛庁という部屋。部屋を外から見る視点がないから立体感が出ていない。
伝えたい、語りたいという作者の意志だけは非常によく伝わってくるのだ。頑張って一生懸命書いているなあ、と感心する。でも、書いても書いても、その書きたい事だけは伝わってこない。きっとそれが分かっているから作者も文を重ねて、ついつい長文になるのだろう。もう少し文章修行が必要のようだ。
テーマは、ほとんどおまけだと考えていい。自衛隊・九条・戦争・国家。描写が作者の筆に余る以上に、テーマの租借には無理があるようだ。物語を飾るスパイス程度に考えておくのが無難で、決して鵜呑みにするような事はしてはいけない。いうまでもないが、あくまで、お話だ。たまに内容を真に受けた書評を見る事もあるので、誤解の無いように、念のため注意を喚起したい。
最後に、気になった点。
主人公などに命の大切さを吐かせるのはいいが、同時に北朝鮮工作員は抹殺しても平気なダブルスタンダードを気にも留めない薄っぺらさ。しかも、それにうすうす気付いているので、ラストで見え透いたパフォーマンスでお茶を濁していて残念だった。
「許せなさ」がポイントのくせに、一旦は「テロ集団のボス」に成り下がった男に対して敬礼で見送るラストの「許し」など、以心伝心というか予定調和というかご都合主義というか、とにかく納得できない展開と人物の感情変化。そんなに簡単に許せるなら、この物語は始まらないだろう、と思わずにはいられない。無理にまとめすぎ。
強引な展開。無茶をやればなんでもうまくいく、とりあえず「熱ければ」いいと言うような展開や行動は、あまりに度重なると辟易してくる。戦闘シーンが嘘くさくプロレスくさくなってしまう。
著者: 福井 晴敏
タイトル: 亡国のイージス
まず、ひとこと。
とにかく長かった。当然だが、長い事自体が悪ではない。長さを気にさせない小説・たくさんの残りページ数が嬉しい小説ももちろんある。2段組600ページ超は、読んでも読んでも減らず、なんども嘆息した。
つぎに内容。
処女作「川の深さは」は、きっとこの「イージス」の習作なのだろう。同じような話だった。どっちかを読めば、もう片方は読まずともいいだろう。
「川の深さは」にくらべれば、作品のレベルはかなり上がっている。多少は腕を上げたのだろう。その代わり長い。好きな方を選んで欲しいが、初めての人には短い前作をお薦めしたい。
面白いかどうか、という点では、面白い。上質のエンタテインメントとして、万人向けだ。アメリカのアクション映画がすきなひとだったら、間違いなく楽しめると思う。ミステリっぽい仕掛けもある。ただ、やはりそれ以上のものではない。三賞受賞と聞いて期待を持ちすぎて正当に評価できていないのだろうが、それほどの作品ではない、という読後の感触は拭えない。
たぶん、この著者とは、表現の感覚が合わないのだろう。読んでいてまったくしっくり来ない。作者が泣かせようとした場面で、泣きたいなあ、と思っているのに、泣けない。琴糸をかき鳴らして欲しい場面で、最後の一歩が退けている。届いてこない。この本の紹介で、「熱い文章」「熱い台詞」「熱い男たち」と、サウナのように熱い熱いと語られているが、その熱さが上っ面で横滑りしていて、まったく地に足が着いていないのだ。
ストーリーは面白い。壮大ですらある。でもその壮大さに筆が付いていけず、結局は描き切れていない印象だ。無事ストーリーを描き切り、それを読ませ切る。それだけの力は文句なしにあるのだが、残念ながらそこまでだ。どこかの紹介文で、本作を圧倒的筆力とあったが、きっと何かの冗談だろう。
決定的に、人物と世界が描けていないのだ。前作もそうだった。人物は薄っぺらで、出てくる多数の人間の区別が付かないし、唐突な行動も発言も、腑に落ちず理解しがたいまま放っておかれる。熱い台詞をはいて熱い行動を取るが、まるで、俳優がシナリオ通りに動いているようだ。風景描写は紙に書いた絵のようで、テレビ画面を通して見ているかのようにリアル感が無く迫ってこない。カットバックを多用しているにもかかわらず、全く「世界」が浮かび上がってこないのだ。それは、国家を論じるテーマでありながら、結局は物語が狭い部屋の中だけで語られていることにも関係があるだろう。イージス艦という部屋。防衛庁という部屋。部屋を外から見る視点がないから立体感が出ていない。
伝えたい、語りたいという作者の意志だけは非常によく伝わってくるのだ。頑張って一生懸命書いているなあ、と感心する。でも、書いても書いても、その書きたい事だけは伝わってこない。きっとそれが分かっているから作者も文を重ねて、ついつい長文になるのだろう。もう少し文章修行が必要のようだ。
テーマは、ほとんどおまけだと考えていい。自衛隊・九条・戦争・国家。描写が作者の筆に余る以上に、テーマの租借には無理があるようだ。物語を飾るスパイス程度に考えておくのが無難で、決して鵜呑みにするような事はしてはいけない。いうまでもないが、あくまで、お話だ。たまに内容を真に受けた書評を見る事もあるので、誤解の無いように、念のため注意を喚起したい。
最後に、気になった点。
主人公などに命の大切さを吐かせるのはいいが、同時に北朝鮮工作員は抹殺しても平気なダブルスタンダードを気にも留めない薄っぺらさ。しかも、それにうすうす気付いているので、ラストで見え透いたパフォーマンスでお茶を濁していて残念だった。
「許せなさ」がポイントのくせに、一旦は「テロ集団のボス」に成り下がった男に対して敬礼で見送るラストの「許し」など、以心伝心というか予定調和というかご都合主義というか、とにかく納得できない展開と人物の感情変化。そんなに簡単に許せるなら、この物語は始まらないだろう、と思わずにはいられない。無理にまとめすぎ。
強引な展開。無茶をやればなんでもうまくいく、とりあえず「熱ければ」いいと言うような展開や行動は、あまりに度重なると辟易してくる。戦闘シーンが嘘くさくプロレスくさくなってしまう。
著者: 福井 晴敏
タイトル: 亡国のイージス