壊れた脳 生存する知/山田規畝子 | 読んだり観たり聴いたりしたもの

壊れた脳 生存する知/山田規畝子

体質的に頻発する脳出血により、高次脳機能障害となった医師でもある著者が綴る、脳とこころの関係に限りなく迫る記録。
陰惨になりがちな闘病記にあって、からっと晴れてすがすがしささえ感じる読後感を与えるのは、著者の人柄によるところが大きいのだろう。実際、著者の闘志と努力、そして希望を持ち続ける心には感銘を受ける。

脳は壊れやすい器官である。にもかかわらず、普段の何気ない生活行動、社会活動、感情、そして自分の意志すらも脳が生み出していることを意識することは少ない。うまく動いている機械は、その働きを感じさせないからだ。そんな脳が壊れた時、我々はどうなるのだろうか。世界の変容、自分自身の崩壊、そして変わらないもの。その内側からの、医師による冷静な報告はとても貴重な内容だ。

著者の、高次脳機能障害とはその名の通り、認識・認知の、最後の高度な部分が障害を受けている状態である。そのため、目は見えており、形も色もはっきり見えているのに、「それが何か分からない」という状態となる。空間に多数の横線が入った通路が見えるから、それが階段であることは分かるが、それが上りの階段なのか、下りの階段なのか、分からない。そのような状況は、予め知識を得ていなければ健常者には想像もできない。脳の機能的な構造を考えさせるエピソードが詰まっている。

21世紀は脳の世紀だと公言する科学者もいるが、脳と心の不思議に興味を持つ人も多いだろう。オリバー・サックスのメディカルエッセイ(レナードの朝など)に興味がある人なら迷わずお薦め。

高次脳機能障害を持った著者が、その障害にもかかわらず闘病記を自分で著すことができたのは、もちろん、ワープロやPCなどの支援環境があったからだ、と言う点にも注目。

著者: 山田 規畝子
タイトル: 壊れた脳 生存する知