戦うための鎧 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

戦うための鎧

金はなく、

ただ、飯を食う、それだけで資金は尽きてしまう。

これは深刻な問題で、

就職活動用のスーツを買うことが出来なかった。



しかし、

買う必要があった。



私の所有するスーツは20年くらい前のもので、

酷く古くさいものだった。

いい加減時代遅れの感が、否めない。

この時代のスーツたちを着て赴いた面接は、

ろくなことはなかった。

就職することが出来ても、

結果は泥風呂に浸かることとなった。



財布の中には、支払いのための金が、

多めの金が入っていた。


私は訓練校帰りに、

ふと思い立ち、紳士服量販店へ立ち寄った。


ちょうど、半額セールだった。


店内を見回し、一番安いスーツを探した。


すぐさま店員が張り付いてくる。


しかし、


想定した価格のものはなく、

いくらか値の張る(私の懐具合からすると)ものしかなかった。



私と同じ年代の店員なのだろうか。

その女子店員が勧めてくれたものを試着する。


鏡に映る姿を見て、

私は思わず笑ってしまった。


最近の背広というものは、酷くタイトなデザインになっているのだった。


「おっさんがこんなデザインの着ても、いいのかな?」

「ええ、お客様の体型に合ってると思いますよ」

わたしはただ、苦笑するしかなかった。

商売の基本なのだった。

客を褒める。

私が逆の立場だったら、同じことを言うに決まっていた。


私は賭けるような気分だった。


金はないが、就職活動は避けて通れない。

訓練校にいても、

その時間は死んだ時間なのだ。

止まったまま、

いや、逆戻りだ。

悪い方に。



私は、思い切ることにした。

有り金はたいてスーツを購入した。


武器に投資しても、

戦いに勝てるかどうかはわからないが、

多少の効果は実感できることだろう。

古くさいスーツを着て、

気分が滅入り、

多少の萎縮を感じなくてすむ。



鎧は買った。


後は、

戦うだけだ。